【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(14)佐々木望side




 鏡花さんが、そこまで話したところで――、ふと東の方へと視線を向けると、「時間のようね」と小さく呟いた。

「――え? 時間?」
「そう」

 鏡花さんは、小さく呟く。
 それと同時に、東側の方から膨大な数の赤黒い鬼のような異形の化物が次々と姿と現す。
 すぐに横田基地の自衛隊が銃で応戦していくけど、その数は今までの比ではなく押され始める。

「――数が今までの比じゃ!?」
「そうね」

 驚いている私とは裏腹に、冷静に答えてくる鏡花さん。
 
「鏡花さん、私達は此処で死んだら現実世界でも死ぬことになるんですよね?」
「そうね」
「鏡花さん?」
「……あ、ごめんなさいね。つい、傍観者としての立場から物事を見る癖がついていたわ。兄も、そろそろ輸送されるし、いまの混乱状態ならヘリの一機を奪うことくらいは出来るはずだから」
「それって……、あの化け物の大襲撃を待っていたって事ですか?」
「そうよ」

 彼女は静かに――、まったく心動かされている様子もなく静かに冷淡に答えてくる。
 
「それじゃ――、この基地は……」
「全滅するわ」
「そんな!?」
「心配なの?」
「それは――」

 少なくとも、横田基地には数千人の避難民が居て、その全ての人が死ぬと言われたら、普通の神経じゃ納得なんて出来ない。
 それを、さも当然のように語ってくる鏡花さんに、私は戦慄を覚えてしまうけど……。

「いいこと? この世界で起きている現状や事象は全て起きた事であり、終わった結果に過ぎないの。これから喰い殺されていく人間も、とっくの昔に死んだ者達であり記憶に過ぎない。その事をよく覚えておきなさい」

 それだけ言い切ると鏡花さんは、倉庫の方に向けて駆けだす。
 普段なら、すぐに自衛隊の人達が注意を促してくるけど、次々と襲い掛かる化け物の対応に忙しいからなのか、声を掛けてくる事はあっても、持ち場から離れられないからなのか制止する意味合いを持たない。

 私も、鏡花さんの後を追うように走る。
 数分でヘリが停まっている場所に到着した私と鏡花さん。
 ヘリの操縦は鏡花さんが行えるらしく、すぐに離陸の準備を始める。

「鏡花さん、先輩どこに?」

 今だに、輸送される予定の先輩の姿が見えない。

「そろそろよ」
「そろそろって…………、あれってUH-X!?」

 鏡花さんが指差した方角――、滑走路の中央部分が突然凹んだかと思うと、そこから姿を見せたのは陸上自衛隊に配備されたばかりの多用途ヘリコプターであった。
 そのヘリコプターは、空に向けて飛び立つと南側へと向かう。

「――さて、追いかけるわよ」

 鏡花さんが操縦するヘリも大空へと舞い上がった。




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