【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(12)



 何度も――、何度も――、何度も――。
 同じ光景――、同じ結末を見せつけられる。
 自分が犯した過ち――、誰かの為に――、自分の願望を押し付けた結果、得られた破綻した結末。
 それは、もっとも忌諱する結末に繋がることを知らずに、ただ走り続けた終局。
 誰もが望むことすらせず、自身すら望むことはしない。
 そんな地獄のような情景を何度も見せつけられて俺は……。



 何度目か分からない。
 気が付けば目の前には数人の男の姿が確認出来た。
 一人は、俺が知っている情報を聞き出そうとして薬を投与してくる医者らしき人間。
 そして――、もう一人は日本人なら誰でも知っている人物であった。

「どうだ?」

 そう――、声が聞こえてくる。
 言葉を発したのは、日本国の総理大臣たる三宅総一郎。
 どうして、ここに日本の首相が居るのかは分からない。
 
 ――だが……。

 少し考えれば分かることだった。
 朧気な意識の中、俺を病院から運び出したのは自衛隊であり、連れて来られたのは広大な空港のような場所だった。
 つまり、自衛隊を動かす事が出来て――、尚且つ空港を自由に利用できる人間と考えれば、簡単に答えに辿り着く。

「アレは、目を覚ましているのかね?」
「はい。そろそろ投薬した薬が切れる頃かと――」
「なるほど……。しかし、安田君。君からの話だと投薬している薬は情報を引き出すことは出来るが、一度で廃人と化してしまうほど危険性の高い物だと聞いていたが、まともに話をする事ができるのかね?」
「それは問題ありません。ただ――」
「ただ、なんだね?」
「意思が強いのか分かりませんが、情報がまったく引き出せていません」
「ふむ……。情報が引き出せないという事は、薬の効果は無いという事かね?」
「いえ。そうではなく……。おそらくですが――、上落ち村に関する情報を本当に知らないのか、それとも――、自白する事が出来ないのか、どちらかと……」
「私は、どんな屈強な男でも自白できる薬と、君からは聞いていたが?」

 顔色一つ変えず坦々と話す日本国の民社党の総理大臣は俺の方を侮蔑した目で見降ろしてくる。
 そこで目が合う。

「なるほど……」
「何か?」
「いや――。目の前の化け物が事情を話さない理由が分かったのだ」
「どういうことでしょうか?」

 三宅の一人納得したような言葉に、安田が尋ねるが――。

「生を望む者には、君が使った薬は効果があるのだろう? だが――、この目の前の化物の目は、死を望む者の目だ。死して、己の中の罪悪感から逃れたい一心なのだろう。――なら、どんな地獄を見せようと、死ぬことを最優先に考えているのだから、情報を得る事は難しいだろうな」
「そんな人間が……」
「安田君。目の前に居るのは人間の恰好をした化け物だ。人間扱いするべきではない――、そう情報は渡したはずだが?」
「――は、はい。分かっています」
「分かっているのならいい」
「総理、どちらへ?」
「第七艦隊が保有する核で空の化物を消し飛ばして衛星通信を回復させる作戦を主導しなければならないから私は、このへんで一度退席する。君は、この化け物を輸送する準備をしたまえ」
「どういうことでしょうか?」
「このまま、此処に――、この化け物を置いていても意味がないと言っているのだ。古文書を解析した結果、上落ち神社の地下には洞窟が存在しているようだ。そうだろう? 山岸直人君」

 洞窟? そんなの聞いたことがない。
 そもそも、うちの神社が祀っている神は知恵と知識の神。
 何か特別な神とも父親からは一言も聞かされてはいない。
 
 ――いや、そもそも俺は親父とは血が繋がっていないが……。

 俺は、日本国首相の言葉に無言で返す。
 
「まぁ、いい。すぐに用意をしたまえ。安田君」
「――ッ。分かりました」

 一瞬、苛立ちのような表情を安田は見せたが、SPを供だって部屋から出ていく総理に頭を下げると俺を見てくる。

「そういうことだ。お前は、これから移送される事になった」

 吐き捨てるように安田は俺に話しかけてくる。

「お前達! コイツの拘束衣は脱がせるなよ? 拘束衣の上から縛り付けてある紐だけ解いて車椅子に乗せておけ」

 研究員達の手によって頑丈な紐が解かれていく。
 ただ――、全ての紐が解けた後も、拘束衣を着せられているので自分で動くことは出来ない。
 俺は、研究員達の手によって車椅子に乗せられた。




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