【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(9)第三者side




 佐々木望や、山岸鏡花が横田基地に身を寄せてから、すでに一週間が経過しようとしていた。
 そんな中、国会議事堂の地下では数十人に及ぶ与党の政治家や閣僚、そして官僚、陸海空の自衛隊の幕僚長などが顔を合わせていた。

「それでは、すぐにでも説明をしてもらおうか? 竹杉君」
「分かりました」

 陸上自衛隊幕僚長である竹杉に命令をしたのは、日本国総理大臣である三宅であった。
 竹杉は、国会の地下深くに作られた緊急災害対策室で、これまで集めた情報を壁に掛けられていたプロジェクターを通して映像を映し――、

「それでは説明させていただきます。すでに、諸外国とのホットラインは途絶えております」
「それは分かっている!」
「峯山官房長官。少しは静かにしたまえ」
「――ですが、総理! これは緊急事態なのですぞ!」
「分かっている。だからこそ、事態を正確に把握する必要がある。竹杉君、続きを良いかね?」

 三宅の言葉に頷く竹杉であったが、その顔色はどことなく疲れを感じさせた。
 すでに諸外国との通信が途絶えてから、一週間が経過しようとしているのだ。
 その間、外務省や多くの機関が隣国などと連絡を取ろうとしたが一切、途絶。
 現状、情報がまったく入ってこない状態に陥っており、世界中がどういう状況になっているのかすら掴めてはいなかった。

「まず、ホットラインに関してですが、復旧の目途は立っておりません。合わせて深海に張り巡らせたケーブルですが、回線自体は利用が可能なのは確認済みです」
「回線が利用可能なのに復旧の目途が立たないというのはどういうことかね?」

 焦った様子で、竹杉に語り掛けたのは外務大臣の川端であった。
 そこには、いつもの人を小馬鹿にしたような表情などは存在していない。

「お伝えした通りです。回線自体に問題は確認できていません。ただ通信は出来ない状況になっているという事です」
「だから! それが何なのか! と、聞いているのだ!」

 テーブルを殴りつけ竹杉に事態の詳細を話すように恫喝する外務大臣。

「お分かりにならないのですか? 回線自体は利用が可能。ただ、通信ができない状態だという事が――、つまり我々からの情報開示請求に答える人間が居ないという事ですよ」
「どういうことだ?」
「まだ、お分かりになられないのですか?」

 呆れた様子で竹杉が溜息をつく。
 それを見ていた川端外務大臣の苛立ちは募っていく。

「我が日本と情報を交換する余裕が無いという事です。つまり、他国でも日本国を襲ってきている意味不明な化け物が出現しているという事です」
「なん……だと……」

 そこまで説明されて、ようやく理解したのか外務大臣が椅子に腰を下ろす。

「――では、竹杉幕僚長。情報が一切、入らない状況でジリ貧だという事か?」
「はい。――ですが幸いなことにアメリカの第7艦隊が横須賀港に来ていたのは僥倖でした」
「どういうことだ?」
「空を覆っている赤い化け物を一掃する方法があります。そこから衛星にリンクする事で現在、どのようになっているのかを宇宙ステーション経由で確認をしてもらう方法が取れます」
「ふむ……。――で、その空を覆っている化け物を一掃する方法とは?」
「アメリカ海軍に所属する太平洋艦隊――、第七艦隊が保有する核ミサイルにより空の化け物を一掃する事で通信を回復するという考えです」
「なるほど。それで現状の把握をする……、と! そういうことか?」
「はい。ただ、核ミサイルの使用と言う事になりますので日本国民の指示が受けられるかどうかは……」
「そんなものは必要ない。我々が政権を取った時点で、強行採決なぞいくらでも取れるからな。それに、守るべき国民も多くが死んだ。生きているのは僅かだろう?」
「――ですが……」
「それとだ……。保有している核ミサイルは、どれだけの数があるのだ?」
「どういうことでしょうか?」
「あの化け物が出てきたのは上落ち村に関わっていると聞いている。通信網の回復と同時に、上落ち村に対して核ミサイルを利用した攻撃をしろ」
「――じ、自国の領土に核ミサイルをですか?」
「そうだ。事態が収拾できるのなら安いものだろう」
「ですが……」
「くどい! すぐに指示を実行に移せ! 分かったな?」
「――ッ! 分かりました……」

 自国に核ミサイルを落すという強行採決が瞬時に決まってしまったこと。
 それに対して、誰もが異論を唱えることはなかった。
 それだけ、現在の日本の置かれている状況は良くないという証であったのだろう。
 命令を指示した三宅は、椅子から立ち上がると、その場を後にする。
 そして、国会議事堂から横田基地に秘密裏に繋がる隠し通路へとSPを連れだって向かう。



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