【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
人類の罪過(7)佐々木望side
翌朝になると、基地全体の様子が見えてくる。
配られた戦闘糧食を、テント内で二人して摂り終えたあと、テントから出て、許可が出ているエリア内だけを鏡花さんと一緒に歩く。
「誰も、散歩している人はいないですね」
「そうね。突然、起きた得体の知れない化け物に喰い殺される人間を近くで見て私達のように動ける人間がいると思う?」
「……それは――」
「いないわよね?」
「はい……」
たしかに彼女の言う通りなのかも知れない。
「――でも、それだと……、私達が二人して基地の中で歩いているのは悪目立ちするんじゃないですか?」
「たしかに目立つかも知れないけれど、化け物相手にしているだけで忙しい彼らに、素性を調査するまでの余裕はないわね」
「そうでしょうか……」
「ええ。だって――、この現象は世界中で起きているから。一部の地域だけなら封じ込めや対策と取れるかも知れないけど、さすがに広大な範囲では対処のしようがないわ」
「……だから、私達には自衛隊の人は見てきたりはしていますけど、話しかけてくるような事はしてこないんですね」
「ええ、人間の精神構造なんてモロい物だから。彼らも何千・何万も居る住民のカウンセリングを出来るほど人手がある訳ではないからね」
「それが基地の中を散策出来ている理由ですか」
「そういうことね。ただ一般人が足を踏み入れてはいけない場所に行くことは出来ないけれどね」
「――でも……、先輩は此処にいるんですよね?」
私は、彼女に聞く。
少なくとも山岸先輩が、横田基地に居るということは最初から鏡花さんは知っていた。
そして、この世界は過去に起きた出来事にしか過ぎないとも言っていた。
それは、つまり……、これから何が起きるのか――、そして何が起きているのかを知っているという根拠にならないだろうか?
「そうね」
間髪入れずに、鏡花さんは頷く。
ただし、その表情は暗く感じてしまったのは気のせいではないと思う。
どこか思いつめた表情――、何かを隠しているかのような素振り。
それらは、不吉な出来事を暗示させるかのよう。
「それなら、先輩を取り戻す為に向かうべきでは?」
「それは無理。ここは過去の出来事に過ぎないから。私や貴女は、本来はこの世界の住人ではないように……、私がお兄ちゃんに会う事が禁じられているように、この世界で接点を持てるのは一度だけ。そして……、その時は、今ではないわ」
「今では無いって……。それと先輩に会えないって――、禁じられているって、どういう事ですか?」
私の問いかけに、鏡花さんは小さく溜息を漏らすと、視線を向けてきた。
「その言葉の意味のままよ? 私は、そういう契約をしているの。だから、お兄ちゃんに会う事は出来ないの。だから――」
「それって……。私が、この世界に来た時に鏡花さんが居なくなっていたのと関係があるんですか?」
「そうね。本来であるのなら、ガイアと契約を結んだ人間と接点を持つ事すら許可はされていないわ。だけど、このままだと兄が消えてしまう。だから、貴女と接点を持ったの」
「――え?」
彼女の――、一言に私は思わず足を止めた。
ガイアという言葉。
それは、たしか地球と指していた言葉のはず。
そして――、契約を結んだ人間と接点を持つことは許されていないという意味と、私と接点を持つことにしたという意味深な内容。
そこから導き出されるのは――、
「気が付いたの?」
「はい……」
私が、ようやく憶測の域であったとしても、真理に辿り着いたのかを理解した鏡花さんは私を見てくる。
「あの現場……、黒い何かに呑み込まれた私や――、その他の人達。あれは……」
「そう。星の迷宮、星――、つまりガイアとの契約を行った人間の末路に他ならないのよ? そして……、佐々木望、貴女もガイアと契約を結んだ人間の一人なのよね」
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