【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(6)佐々木望side




 二人して、多くの避難民と一緒に連れて行かれた場所は大きな格納庫みたいな場所で受付が始まる。
 
「鏡花さん、これって――、不味いのでは?」
「大丈夫よ。適当でいいから。今の状況で、他の自治体との連絡がつくとは考えられないから」
「そうですか?」
「ええ。日本は縦割り社会だもの。横の連携は弱いから大丈夫。それに、此処の格納庫だけでなく他の格納庫も使っているもの。少なくとも1万人以上は避難してきているわ。それなら、確認も時間が掛かるわ」

 彼女は、自信満々に答えてくる。
 登録した住所は、私が元の世界で暮らしていた山岸先輩と同じアパートにして名前は、そのままで登録。
 下手に偽名を使うよりかは良いと思ったから。
 鏡花さんは、山岸先輩と同じ部屋で登録を掛けた事から、やっぱり元の世界の記憶はあると察してしまうけど口には出さない。

「それにしても、テントを用意してくれて助かりましたね」
「そうね。丁度、二人用のモノを用意してくれたのは助かったわ」

 かなりの人数が避難してきたけど、女性は優遇されたようで多めに女性へはテントは支給された。
 食事も、戦闘糧食というモノを配られて食事が出来たので、ホッとすると共に、二人してテントの中で語らう事が出来ている。

「本当に村を焼くような人達と同じ部隊とは思えないですね」
「……佐々木望」
「はい?」

 私の言葉に鏡花さんは、しばらくした後、静かに私の名前を口にしてきた。
 その言葉には、静かであったけど有無を言わせない威圧感があった。

「貴女は、人間がどんな状況になれば鬼になれるか知っている?」
「――え?」

 彼女が一瞬、何を言っているのか私には理解できなかった。
 だけど、少しずつだけど何となく分かってくると……、自ずと答えは出てくる。

「人が鬼になるのって……。何かを成し遂げる時の為ですか?」

 佐々木家が闇を抱えていたのを知った時――、そして何か目的があると知った時に、人間は、どれだけ残酷になれるのかを知った。
 だけど……。

「いいえ、違うわ」
「違う?」

 私の答えは彼女の求めていた物とは違っていたようで――、

「心に刻みなさい。人が……人間が最も醜くなる瞬間は、自分自身を絶対的な正義だと妄信し他者を傷つける時だと――」
「それは……」
「貴女は、見なかったのかしら? まとめサイトやインターネット、そしてマスメディアや、それに扇動された自らで考えることを放棄した人々の姿を。真実を見ずに真実を理解せずに、物事の本質を理解せずに、したり顔をして悪意なき善意で他人を傷つける行為を平然と行う人という皮を被った鬼を……」

 彼女の言葉は続く。

「正義――、それは心地よい響きかも知れないわね。だけどね、守りたい者を定めていない正義ほど、愚かしいモノはないの。正義という大義名分を振り翳して誰かを傷つける。自らは傷つく覚悟もせずに、何も失うという決意もなく、他を廃する。それのどこに正義があると思うの? 正義なんて、人の数ほどあるというのにね。だから……、私は人間が嫌い」

 鏡花さんは、苛立ちを含んだ声色で――、自分自身すら納得させるかのように言葉を口にした。



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