【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
人類の罪過(5)第三者side
研究室内で、日本国首相の話と陸上自衛隊幕僚長、そして――近藤の話を聞いていた研究員達は、何時の間にか手を止めていた。
「近藤主任」
その内の一人が近藤に話しかける。
男の名前は、安田順平。
横田基地に急遽作られた研究施設の副主任である。
「どうした? 安田君」
「首相の許可が下りたのでしたら、さっさと実験に移りましょう! この実験体の細胞は、軍事転用にも可能ですよ!」
その物言いに近藤は、手を強く握り絞めると――、「そう……だな……」と苦虫を潰したような表情で頷いて見せた。
数時間にも及ぶ実験が終わったあと、何の成果も得られなかった面々は、研究室から出て、それぞれ用意された休憩所に向かう。
「近藤主任も、そろそろ寝ないと体調に差し障りがありますよ?」
「私はいい。まずは研究を進めないとな」
「そうですか……」
幾分か、疑いのある眼差しを見せる安田であったが、すぐに自身が疲れている事もあり仮眠をとる為に研究室から出ていく。
扉が閉まる際に、近藤は通路に数人の航空自衛隊員の姿を見咎める。
人数は4人。
自動小銃を持っている事から、総理は実験体の逃亡と、それに手を貸す者が出てきたら処分するようにしているであろうことが伺い知れる。
そんな現状をまざまざと見せつけられ――、国の闇の部分を見た近藤は深く溜息をつくと、椅子に縛り付けられて身動きが取れない男の部屋へと入る。
もちろん、その際には網膜認証などが必要であったが、研究所の主任もある彼には何の問題もないのであった。
部屋に入り、男に近づく近藤。
「少しは、気分は落ち着いたかね?」
「……」
近藤の問いかけに一切反応しない男。
それも、そのはずで――、男は猿轡をかまされていた。
つまり、男からの返答を期待して話しかけた訳ではないという事が分かる。
「今から、君に聞きたいことがある」
「……」
無言の男に「――今、外す」と、語り掛けた近藤は、男が付けられていた猿轡を外す。
「これで話が出来るようになったはずだ。山岸直人君、君に聞きたい事がある」
そんな彼の問いかけに、返ってきた返答は「殺してくれ」と、言う……たった一つの言葉であった。
「何を言っているんだ? 君は、このままではバラバラに体を解剖されてホルマリン漬けにされるかも知れないんだぞ?」
「……殺せ」
「いい加減にしてもらえないか? 上落ち村とは何なのか? 君の体はどうなっているのか? それを教えてはもらえないか? 何でも死にたいというセリフを吐かれても此方は困る」
「……」
近藤の、その言葉に無言で虚ろな眼を差しを向ける山岸直人。
その目には漆黒の闇だけが映し出されていた。
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