【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(4)第三者side



 ――横田基地、地下通路。
 
 現在、通路内には複数の足音が反響していた。

「総理」

 そう語り掛けてきたのは、竹杉俊作――、陸上自衛隊幕僚長であった。

「何かね?」

 総理と呼ばれた男が、不機嫌そうな表情を変える事なく歩きながら、話しかけてきた男に言葉を返すが――、男は気にする素振りもなく口を開く。

「例の件ですが」
「ふむ……」

 そう言いつつ、日本国の総理大臣である三宅は足を止める。

「話を聞こうか?」

 尊大な態度をとる男の口ぶりに竹杉の眉が僅かに動く。

「はい。それでは、こちらに……」

 竹杉に案内され三宅首相が到着した場所は、指紋認証などが必須な扉の前であり、その扉が開いた先には、多くの白衣を着た研究者達が、電子機器や実験道具を使い研究を行っていた。
 そんな中、研究者の一人が、竹杉の来訪に気が付く。

「総理、お待ちしていました」
「この者は?」
「総理がお会いするのは初めてかと思いますが、日本国内の遺伝子研究で実績を持つ近藤和彦という人物です」
「実績か……。聞いた事がないな」

 そう語る三宅首相に眉を顰める竹杉であったが――、語りかけてきた近藤という男が余分な時間は無いとばかりに口を開く。

「そちらをご覧ください」

 近藤が指差した先――、そこには一人の男が椅子に縛り付けられていた。
 そして、その男と研究施設の間には巨大な強化アクリル硝子で隔てられている。

「ふむ。あれが報告にあった遺伝子異常を持つ個体と言う訳か?」
「はい。怪我をしても即時に細胞が修復を行うという異常性を持っております。これを見てください」

 研究所、室内の壁に掛けられていたモニターに映像が映しだされる。

「これは、何だ? 動いているようだが……」
「あの男の遺伝子をサンプルとして抽出した物になります。見てください! ここを! 細胞が自動的に修復されていく様を! それも恐ろしい速度です」
「つまり、何なのだ? これが、上落ち村に存在する何かに関係ある物なのか?」

 日本国首相としては、大学を出ているのも疑わしいと思われる程の無知の発言に、竹杉や近藤だけでなく研究員の誰もが手を止めてしまうが、愚かな人間というのは周りを認識できないようで――、そしてそれを指摘する必要性も無いと感じた近藤はさらに説明をするために――、

「関係があります。おそらく時の政権は、上落ち村から何かしらの物を得ていた可能性があります」
「それは、古代史から続くのか?」
「おそらくは――」
「ふむ……。それで、不老不死は可能なのか?」
「それは研究結果次第かと……」
「そうか。それと竹杉」
「はい」
「ここの基地は大丈夫なのだろうな? お前の管轄ではないと聞いているが?」
「航空自衛隊の管轄です。ただ、いまは混乱しているので私が代わりに対応している形になります」
「なるほどな。それでは竹杉、お前はさっさと陸上自衛隊を指揮して国内で発生している問題点を改善しろ。このままでは、私の政権の支持率低下にも繋がるからな。それと近藤とやら、お前はどんな手を使ってでもいいから、さっさと実験を成功させろ。時間は無いぞ?」
「分かっています」

 首相の言葉に近藤と竹杉は頭を下げる。
 そんな様子を不機嫌そうな表情で見た三宅は部屋から出ていく。
 そして――、その後ろを5人のSPが追いかけていくと扉は閉まった。

「あれが日本国の首相か」

 ボソッと呟いた近藤。

「それを言うな。マスメディアに騙された国民が投票した結果、政権を――、日本国の首相になれたお飾りの男だからな。自分達の事しか考えていない。だから――」
「なあ、竹杉」
「何だ?」
「お前は、本当にあんな首相で良いと思っているのか?」
「何を言いたい?」
「あの男――、山岸直人が住んでいた村で土砂崩れが起きたのは陸上自衛隊が関わっているんだろう?」
「……何か証拠でもあるのか?」
「別に……ないが……」
「――なら、余計な詮索はしない事だな。お前も命が惜しいだろう?」
「――ッ! それは、脅しということか?」
「日本国に有益でない者は処分する。それが治安を守るということだ」

 そう言い残し竹杉が部屋から出ていく。
 その後ろ姿を見送った近藤は深く溜息をつくと――、「この国は狂っている」と、一人呟いた。





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