【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
贖罪の迷宮(5)佐々木望side
何だか――、傍観者のように私は見ているだけしか出来ない。
彼女が……、もう一人の私だと思う佐々木望が夏目さんと話しているのを見ながら、そう思っていると、先ほど上がってきた階段へと全員が下りていく。
最後に扉を閉めたあと、内側からは施錠できるようになっていて鍵を住職である神居さんが掛ける。
「それにしても、上落ち神社にまで手が回っているとは……」
施錠した後、振り向きざまに呟いてくる神居さん。
「と言う事は俺達が出た場所は――」
「はい、上落ち神社になります」
「なるほど……な……」
階段を降りていき、星の迷宮と住職が言った場所まで戻る。
隠し扉を閉めたあと、通路でランハルドこと菊池という人物が背中からリュックサックを下ろし中身を取り出す。
「とりあえず古文書の解析が最優先だな」
菊池の言葉に、田中が頷くのを聞きながら、私の身体は――、その手は古文書の一つを手に取る。
それは、油紙に包まれた書物。
手書きで書かれていて――、文字を私では読むことは出来ないのだけれど……。
「やっぱり神代文字ね」
「みたいだな」
私の唇からは、私が読めない文字を知っているような素振りの声が零れ落ちる。
「今の時代に、読める者がいるのですか?」
私の言葉に驚く住職。
ただし、私ではない。
もう一人の私が発している言葉であって、知識ももう一人の私のもの。
だから、私には読むことも発する事も出来ないし身体を動かすことすら出来ない。
ただ、第三者のように見ているだけしか出来ない。
「はい」
「だよな。佐々木の家は、由緒正しい古い家柄だもんな」
「藤田さん、私のことはどうでもいいのよ。それよりも古文書の解析が先なのは分かっているわよね?」
「分かっているよ」
私に注意された藤田は肩を竦める。
「えっと……、菊池さん」
「ああ、これか?」
菊池が差し出してきたのは上落ち村と、その近辺の地図。
近代地図で、それは衛星から撮られたもの。
ネットで探せばいくらでも見つけることができる物で、別段に珍しいものでも何でもない。
「あとはマップメジャーもいるか?」
私は、菊池の言葉にコクリと頷く私は古文書に目を通しながら地図の場所に当たりをつけていくのかボールペンで何かを書きこんでいく。
「何をしているんだ?」
その様子が気になったのか、黙って様子を見ていた夏目さんが私に声をかけてくる。
「神棟木(かみむなぎ)の場所を探しています」
その言葉に、私はハッ! と、する。
たしか、私達を襲ってきた男は、神棟木のことを言っていた気がするから。
「神棟木? 何だ、それは……」
「分かりやすく言うなら聖櫃のことです」
「聖櫃?」
「藤田さん、私は解析を勧めないといけないので説明をお願いできますか?」
「仕方ないな。これから何が起こるか分からないから情報の共有は重要だしな」
そう言い藤田は、口を開く。
「夏目さん、あんたは失われたアークというのを知っているか?」
「失われたアーク? それは、ソロモン王の秘宝だったか?」
「そんなところだ」
「――まさか……、そんな世迷言……」
「世迷言なら良かったんだけどな……」
「神居さん、聞いた事はあるのか?」
「――いや、ただ……契約の部屋があると聞いたことはある」
「契約の部屋? それは一体……」
神居さんの呟きに、頭を抱える夏目さん。
「――で、契約の部屋ってのはどこにあるんだ?」
「それは知らん」
「そうか……」
「――で、だ……。どのくらいで解析が終わるんだ?」
私に話しかけてきたのは菊池。
田中は、ずっと周囲を警戒していて――、
「ここね……」
「ここ?」
私の答えに首を傾げてきた夏目さん。
「ここの星の迷宮の下層に契約の部屋があるみたい」
「なら、すぐに向かおうとしようぜ」
「そうね」
すぐに荷物を菊池のリュックに仕舞ったあと、懐中電灯を人数分取り出し私を先頭に歩きだした。
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