【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
贖罪の迷宮(1)佐々木望side
「ずいぶんと立派な物だな。それにしても――」
夏目さんの視線が先に歩く住職の背中に向けられていて――、その事に気が付いたのか住職が先行しつつ「疑っていますかな?」と、口を開いた。
「そうだな。あまりにも出来過ぎている。普通は、そうは思わないか?」
「ごもっとも。ですが――、上落ち村について調べているのでしたら、大体の予測はついてはいるのではないのですか?」
その言葉に私は頷く。
「つまり元々は、上落ち村は時の権力者との繋がりがあったと言う事ですよね? そして、その監視役もしくは仲介役として神居村は存在していた。だけど有事の際には身に危険が及ぶ可能性がある。それらを見越して、このような通路を作っていた。そういうことですよね?」
「その通りです」
「それでは、どうして村の人達を避難させる事をしなかったんですか?」
そう、こういう状況――、つまり政府にとって神居村が邪魔になる事が事前に分かっているのなら村人を逃がすのが道理。
なのに、私達が来るまで住職は何もしていなかった。
そこが、どうしても気になるポイントで――、
「避難させる必要がないと思ったのです」
「どういう意味ですか?」
「その答えが、ここから先にあります」
鍾乳洞を進んだ先――、壁と思われていた場所の出っ張りを住職が押すと低い振動音と共に壁に穴が空いていく。
鍾乳洞という暗闇の中にぽっかりと開いた穴の先は、微かに灯りが見えた。
開いた壁を通り抜けて辿り着いた場所。
そこは――、カミソリ一枚入る隙間が無いほど整然とした石で組まれた通路が存在していた。
ただ、そこの通路には見覚えたがあった。
「ダンジョン……」
「ここは星の迷宮――、その施設の一部です」
「星の迷宮?」
その呼び名はどこかで聞いたことがある。
たしか……、狂乱の神霊樹が同じことを言っていた。
「それって、どういう意味ですか?」
「私も詳しくは存じません。古文書は、上落ち神社にて厳重に管理されておりましたので」
「住職でも知らないということですか?」
「はい」
嘘はついていないように思える。
それにしても星の迷宮か……、まるで星が関与しているように感じてしまう。
「あの、さっき施設って言いましたよね? そうすると何か理由があって星の迷宮というのは存在しているんですか?」
「その答えは、この先にあると思いますよ?」
そう呟くと住職は歩き出す。
「佐々木、ダンジョンというのは何だ? お前は、ここの施設を知っているような素振りだったが……」
「それは――」
「時間がありません。急ぎましょう」
私が何て説明していいのか迷っていた所で、住職が早く進むようにと急かしてきた。
仕方なく話は中断。
ホッとしつつ、私と夏目さんは住職の後ろを付いていく。
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