【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

戦火の神居村(4)佐々木望side



 空気を切り裂く音。
 そして次々と鳴り響く爆発音。

「証拠は全部、消そうという魂胆か?」

 走りながら夏目さんが呟く。
 それを後ろで聞きながら、必死に彼のあとを付いていく。
 自衛隊の装備は何十キロもあるはずなのに、走る速度は私とはあまり変わらない。
 日頃鍛えている成果だと思うけど、魔法が使えないと自分は此処まで無力なのかと唇を噛みしめる。
 魔法さえ使えれば、上空の戦闘機を落す事だって可能なのに……。

「ハァハァハァ。ここまで来れば、あと少しだな」

 彼が足を止めて息を整えながら、そう私に話しかけてくる。
 山の木々の合間を縫うように走ってきたから、私もかなり消耗してしまった。
 
「あの……、夏目さんは、どうしてそこまでするんですか?」
「――ん? 何を?」
「いえ、先ほど隠れている時にも聞きましたけど、夏目さんは国民を守る為だって上層部の意見を無視しましたよね?」
「なんだ。そんなことか。決まっているだろ? 自衛隊というのは国民を守る為の組織だ。国民あっての国だろう?」
「……そうですね」
「いくぞ」

 すぐに息を整えた彼は、自徳寺へと続く階段ではなく山の斜面を掛け上がる。
 私も、その後ろを付いていく。
 時間としては5分程度。
 ようやく境内に辿りつく。

「とりあえず母屋にいくぞ」
「はい」

 そこで、ふと村の様子が気になり振り向いたところで私は息を呑む。
 そこには、炎上する神居村の様子が目に入ってきたから。
 それだけじゃない。
 何人もの村人を守るようにして戦う自衛官が、村人を処分する為にヘリから降下してきた自衛隊と戦う姿が目に入ってくる。

「――おい! 早くしろ!」
「は、はい。――で、でも! あれって……」

 いくら国の上層部の決定、情報を隠蔽するためとはいえ、酷すぎる。

「どこの国の軍隊もしていることだ。国の為だとな。兵士に言い訳を与えれば、モラルなんてものはゴミ以下になり果てる。それが、軍隊ってものだ」
「――ッ」
「とにかく急ぐぞ」
「はい」

 彼の後を付いて自徳寺の住職一家が住んでいる母屋に辿り着く。
 玄関を何度か叩くと齢70歳は超えているであろう老人が出てくる。

「ヒッ!」
「静かにしろ。別に殺しにきたわけじゃない」

 夏目さんの服装を見た住職が腰を抜かして座り込み怯えると、夏目さんは銃口を下に向ける。

「――な、なら! 何で村を……」
「俺にも分からない。それよりも、上落ち村に関しての情報を知りたい。ここは寺院なんだろう? 何か上落ち村の神社に関して知っていることはないか?」
「……な、何故!? その話を――」
「いいから答えろ。何か無いのか? それが村を救う手がかりになるかも知れないんだ」
「…………そうですか。彼女から聞いたのですか」
「佐々木望か。そうだ、大体の話は聞いた」
「分かりました。それでは、お教えしましょう。それよりも、まずはこちらに来てください。それと靴を履いたままで構いません」

 母屋の廊下を真っ直ぐに進み突き当りの部屋に到着したところで、老人は床を調べる。
 すると、床板が突然、スライドして地下へと通じる階段が姿を現した。

「おそらく、軍が此処までくるのも時間の問題でしょう。説明は、中で行いますので付いてきてください」
 
 地下へと通じる階段を降りる。
 途中で老人が壁の何かに手を触れると床板が閉まり、辺りは暗闇に閉ざされるけど、すぐに老人が手にした懐中電灯で周囲が照らされた。

「さて、こちらに――」

 促されるように階段を降りて到着した場所は、巨大な鍾乳洞。
 




 

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