【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

在りし日の時間(6)佐々木望side




 病院を出たあとは、すぐにタクシーを拾う。

「どちらまで?」
「上落ち村までお願いします」
「お客さん、それは無理ですよ? 今は、国道が閉鎖されていますから」
「――え?」
「土砂崩れがあったのは知っているでしょう? 撤去工事の為に国道が閉鎖されているんですよ」
「――で、でも! 上落ち村から国道までは距離がありますよね? 影響はないはずですけど……」
「そうなんですよね。――ですが、現在は国道が閉鎖されているんですよ」
「そんな……」

 タクシーの運転手の言葉に私は引っかかりを覚えながらも、どうすればいいのかと考えてしまう。

「近くまで乗せていくことは出来きますけどね。帰りはどうするんですか?」
「それは……」
「レンタル自転車とかバイクとかはありませんか?」

 帰りの足が無いのは困る。
 それなら、つい最近にコンビニなどで置かれ始めたレンタル自転車を借りれば良いと思い場所を聞くけど――、

「そんなモノは見た事がありませんよ?」

 ――と、言葉を返してくる。
 
「――え? で、でも……。大手のコンビニ系列なら……」
「そんなサービスを行っているコンビニエンスストアは見た事がないですね」
「そうですか……」

 よく考えてみれば、此処の世界は私が住んでいた世界とは異なるばかりか、レンタル自転車が常習的に使われるようになった世界の5年前の2018年。
 レンタル自転車が普及しているとは限らないのだ。

「――あ、でも電話は繋がりますよね? 連絡をすれば迎えにきてくれますか?」
「それは可能ですけど、料金が嵩みますよ?」
「それでお願いします」
「分かりました。それでは、国道封鎖前まで送り届けますね」

 そうして車は走り出す。
 伊東市の駅前を抜けて山間を縫うように国道を走り続ける。
 しばらくして、タクシーの運転手の方が言った通り、黄色い看板と共にカラーコーンではなく、ゲートのようなモノで国道が通れないように完全に塞がれてしまっていた。

「これって……」

 普通なら、カラーコーン程度の封鎖のはず。
 それなのに、厳重に両開きの鉄の門で国道が封鎖されているどころか、ゲートを少し進んだ先――、視線に入るギリギリの場所には陸上自衛隊の車両が見えた。
 
「少し前までは、こんなに厳重では――。お客さん、どうしますか? 帰りますか?」
「――そうですね。少し離れた位置で下ろして頂けますか?」
「――え? いいんですか?」

 私はタクシーの運転手に頷く。
 車は、まっすぐに町の方へと引き返していき――、途中で停まったところで私は車を降りる。

「それじゃ、またお願いします」
「分かりました。こちら営業所の名刺になりますので」

 受け取った名刺をポーチに入れたあとお礼を言い私は国道が封鎖されているゲート近くから森の中に入りスマートフォンのMAPアプリを起動。
封鎖されている道路を左手に見ながら進んでいると、銃を構えた陸上自衛隊の人の姿が見えてくる。

「どうして……、こんなところで銃なんて……」

 演習場でもないのに、銃を構えているなんて明らかにおかしい。
 だけど、いまは疑問を解決する手段はない。
それと何だか分からないけど、雰囲気から見つかったら大変なことになりそうな気がして、アプリを起動したまま方角を確認し森の中へと入っていく。
どれだけの時間を歩いたか分からない。
それでも歩き続けていると、日が沈みかけたところで目の前の森が開ける。

「神居村……」

 ようやく森を抜けた私は、上落ち村に隣接している村――、神居村の全貌を見ることが出来た。
 
 

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品