【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

在りし日の時間(3)佐々木望side




 呟きながら、これ以上は得られる情報はないと思い、キャリーバックの方を確認するけど、入っている物と言えば化粧用品や衣類の類で他に目新しい物は見つからない。
 
「それにしても……」

 クーシャン・ベルニカの話しぶりからして、私は伊東市に居るような口ぶりだったけど、そうなると不可解なのは、どうして私が千葉駅前に居たのか? と、言う点。
 そして、何より一度も私ではない佐々木望と会っていないという事。

「やっぱり不可解な事が多すぎるよね。だけど、ここって私が居た世界に酷似しているけど、少し違うよね」

 一応、インターネットにはスマートフォンは繋がるのでネットで検索するけど、日本だけでなく世界的にダンジョンが出現した記述は存在していない。
 私の記憶が正しければ、今日のお昼頃には得体の知れない建造物であるダンジョンが出現したことがネットでは騒がれていたはずだから。
 とりあえず、これ以上の情報収集は不可能だし、明日は先輩が入院していると記事に書かれていた病院に向かうのが得策なのかも知れない。

 キャリーバックから取り出した物を入れ直したあと、シャワーを浴びてから布団に入る。
 すると疲れていたのか、すぐに意識は奈落に落ちるようにして落ち込んでいき――、

「佐々木望」

 意識を手放そうとしたところで、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
 それと同時に意識がハッキリとしてきて――、

「えっと……」

 周りを見渡す。
 そこは、私と山岸鏡花さんが出会った場所で、何もない真っ白な空間であった。

「まったくもう!」
 
 ただ、目の前には私と一緒に社へと入ったセーラー服姿の少女――、山岸鏡花さんが立っていて――、

「ここが、どういう場所か忘れたの?」

 ――と、少々お怒り気味で話しかけてくる。

「えっと、黄泉平坂だっけ?」
「そうよ。だから気を抜いたら駄目。今の貴女は、何の力も持たない只の人間なんだからね。気を抜いたら喰われるわよ?」
「喰われる? 喰われるって……何に?」
「世界に――」
「世界って……」
「ここは、そういう場所なの。――で! 私は、時間軸としては此処の場所には存在していないから、世界と接する場所には存在できないの。だから、貴女の精神に働きかけているのよ?」
「精神?」
「ええ。だけど、貴女は普通の人間だから、お兄ちゃんと違うから、起きている時には干渉できないの。困った事にね!」
「それで、私が寝てから干渉してきたってことなの?」
「ええ。そういうことよ」
「……少し聞きたいんですけど……」
「何?」
「この世界の、私って先輩の恋人だったんですよね?」
「そう聞いているわね。あの時に――」
「あの時?」
「貴女には関係の無いことよ。そもそも貴女は、本当の意味で言うとこの世界の佐々木望ではないもの」
「――ッ」

 私を否定してくるような言葉に思わず言葉が詰まる。

「それと、お兄ちゃんには会いに行かない事を勧めるわ。真っ直ぐに上落ち村に向かいなさい。そこで、真実の歴史を知る事が出来るから」
「真実の……?」
「ええ、どうしてダンジョンが出来た世界が生まれたか、そして――、貴女がどうして月読から嫌われているのかを、その目で見た方がいいわ」
「上落ち村で集落全体が壊滅したんじゃ?」
「いけば分かるわ」

 そういうと、山岸鏡花さんは姿を消す。
 
「うっ……」

 彼女が消えると同時に私は目を覚ましていた。
 部屋の中には陽光が差し込んでいて、据え置きのデジタル時計には午前9時の時間が刻まれていた。




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