【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

幻影の過去(5)佐々木望side




 私が知らない私が先輩と付き合っている――、そのことに嫉妬を覚えてしまっている事に気が付きながら、私は肩から掛けているバックを強く握りしめる。

「どうして――」

 自問自答しながら呟きながらも、答えが見いだせない事に苛立ちを募らせながらアパートの1階を確認していくけど、もちろん藤堂さんや、江原さんの名前はアパートのプレートには存在していない。

「やっぱり、この世界は私が居た場所とは全く違う場所?」

 ――でも、それはなんか違う気もする。
 それに――、先輩と私が付き合っている世界が存在するのなら、それは良い事だと思うし……。
 そこまで考えたところで胸の奥がチクリと傷む。
 何故なら、私が先輩と付き合っている訳ではないから。

「これからどうしよう……」

 モノレール千城台駅まで戻り、自動販売機でマックスコーヒーを購入したあと飲みながら考える。
 私と一緒に来たはずの先輩の妹――山岸鏡花さんと逸れたのは本当に痛い。
 道標が無くなったようで、これからどうしたらいいのか分からない。

「はぁ……」

 思わず溜息が出てしまう。
 とりあえず、現在分かっていることを整理する。
 この世界はダンジョンが存在していない世界。
 そして上落ち村が土砂崩れで壊滅したこと。
 あとはクーシャン・ベルニカが私と顔見知りで私と先輩が付き合っていることを知っている事。

「やっぱり変よね」

 どうして、先輩と私とクーシャン・ベルニカが知り合いなのか……。
 どう考えても腑に落ちない。
 でも、先輩の着替えを取りに来たと言っていたし、敵対関係ではないと思う。

「駄目ね……。やっぱり、接点がどう見ても……。あ――」

 そこで私は思いつく。
 先輩に会ってみれば何かが分かるのではないのかと。
 少なくとも、鏡花さんは先輩を解放したいと言っていた。
 それなら、ここで答えが出ない考えを巡らしているよりはいい。

「そうなると――」

 私は、自然と自分のバックの中からスマートフォンを取り出す。

「――え?」

 そこでも私は思わず手が止まる。
 スマートフォンの電源を入れたところで、私と山岸先輩のツーショット写真が壁紙として使われていたから。

「これって……。私のスマートフォンじゃない……」

 先輩の盗撮した写真を壁紙として使ってはいたけど、ツーショット写真はもっていない。
 ――となると、考えられることは一つだけ。

「このかばんって……。私のじゃない?」

 そう思うと、気持ち悪くなってしまう。
 まるで得体の知れない何かと繋がっているような感じを受ける。

「――でも……」

 捨てる訳にはいかない。
 少なくともカバンが無くなったら生活も出来ないし、移動手段も断たれてしまうから。
 それと共に自分が携帯しているスマートフォンにも何か情報があるのでは? と、思いメールを確認すると――。

「何のメールも……ない?」
 
 意味が分からない。
 普通、メールなどは残っているはずなのに。
 念のためにWEBメールも確認しておくけど、電話帳と一緒で全てのデータが白紙状態。
 発着信履歴すらない。

「なんだか意図的に情報が遮断されているような気がする」

 思わず口から出た言葉は真理に近い気がした。
 ただ、それが何だというのか?
 この世界がどういう成り立ちで出来ているのか、それすらまったく理解できていない状況で何かをされたとしても判断する基準がないのだから、どうしようもできないというのに。

「やっぱり先輩に会いにいくのが早いよね」

 一応、スマートフォンからインターネットには繋がる。
 ネットで検索を掛けたところ、上落ち村での唯一の生存者である山岸直人先輩が入院している病院は確認できた。

「まずは、伊東市に向かわないと――」

 近くの信用金庫に行き現金を引き下ろしたあと、私は千葉都市モノレールに飛び乗った。




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