【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
幻影の過去(3)佐々木望side
私は、思わず距離を取ると同時に、身体強化の魔法を発動させようとするが、魔法が発動しない。
その事実に驚き、自分がヒールのある靴だったことを失念して居た事もあり倒れかける。
「おいおい、何をしているんだ?」
転びそうになったのを、助けてきたのはクーシャン・ベルニカであり、目の前の男はずいぶんと私に親しげに話しかけてきた。
どう反応をしていいのか困ったところで――、
「それより、どうしてお前がこんなところにいるんだ?」
最初に、私に投げかけてきた言葉を再度、レムリア帝国の軍人が問うてくる。
「……まぁ、いいか。それより、直人の服を取りにきたんだろ?」
「――え?」
その言葉に私は思わず声を上げてしまう。
どうして、この場で先輩の名前がクーシャン・ベルニカから出てくるのか分からなかったから。
「違うのか?」
「えっと……そうです……」
何が何だが分からない。
それでも、ここは話を合わせておいた方がいいと思い頷くことにする。
男が懐から鍵を取り出すと、ドアの鍵を開ける。
「――さて……と」
見知った場所に入るかのように、クーシャン・ベルニカは部屋の中へと入っていく。
そして、私といえば男のあとを追うようにして室内に入るけど、何度か山岸先輩の部屋に入った時のように室内は綺麗に片付けられている。
室内を見渡していたところで、男が先輩の服を袋に詰めていく。
特に何か変わったことをしているようには思えない。
「あの……」
「どうした? 何か、あったのか?」
「――いえ……」
何ては話しを切り出していいのか分からない。
それに、私に敵対心を向けているようでもない。
まったく訳が分からない。
仕方なく先輩の部屋の中を見渡していると、以前に部屋に入ったときに見かけた木製のデスクが目に入る。
その上には、パソコンが置いてあるところまで一緒。
ただ――人る異なる物が目に入った。
――それは……。
私と先輩が一緒にツーショットで映っている写真立て。
「これって……」
こんなの見た事ないし、一緒に写真を撮ったこともない。
「どうした?」
私の呟きに反応したのか、クーシャン・ベルニカは私の方を向いてくる。
そして――、その視線は私が手にしている写真立てへと向かう。
「お前と直人は恋人同士なんだから、当たり前だろ」
「――え? 先輩と?」
それは、とても嬉しい事だけど……、なんだろう……釈然としない。
実際に付き合ったことも無いのに――、写真の中のような笑顔を向けられた事もないのに……だからかもしれない。
胸が強く締め付けられるほど痛いと感じたのは……。
「お前、大丈夫か? 今日、変だぞ?」
「――だ、だだだ、大丈夫です!」
「それならいいが……、直人の看病は大変だからな。無理はするなよ?」
一瞬、心臓の鼓動が跳ねるような衝撃が身体を貫く。
それは先輩に何かあったと言われているに等しいから。
だけど、何があったのかまで聞くのは流石におかしい。
変に勘繰られるのは避けた方がいい。
「私は大丈夫です……」
「まったく。あのことが起きなければな……」
――あのこと?
男が何を指して言った言葉か分からないけど、それは重大なことを示しているのだけは分かった。
「それじゃ俺は、先に直人が入院している病院に行くからな。望も何かあったら連絡を寄こせよ?」
私はコクリと肯定の意味を込めて頷く。
部屋のドアが閉まったのを確認してから、一体――、この世界では何が起きているのか? を確認する為に、先輩のノートパソコンの電源を入れる。
ファンの音が回る音と共に、パソコンが起動。
「パスワード?」
思いつく限りのパスワードを入力していくけど、中々――、パソコンは起動しない。
最後に、私の生年月日を入力してエンターを押したところで、パスワードのロックが解除されてモニターの画面が映る。
「私のパスワードということは……、やっぱり先輩と私は付き合っている可能性が高い?」
半信半疑ながら、インターネットで、この世界の情報を確認していくと日本国内にダンジョンが出現したという記述も、日本ダンジョン探索者協会が存在しているという情報も何処にも存在しない。
――ただ、その代わりに一つだけ目に止まったニュースがあった。
それは……、上落ち村で発生した土砂崩れに関する情報であり、唯一の生存者――、山岸直人先輩に関する内容であった。
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