【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

黄泉平坂(1)佐々木望side



「ここは……」

 ――いつ気が付いたのか分からない。
 だけど、気が付けば私は意識を取り戻していた。
 
「どこなの?」

 辺りを見渡すけれど、自分自身が居る場所が分からない。
 周りは何も存在しない白い空間で――、自分の手足すら視認することができない。
 何より身体を動かしているという実感がまるでなくて――、まるで夢の中にいるようで……。

「木魅は? 祖父は、どこに……」

 そこでようやく記憶が戻ってくる。
 そして――、自分の身体は木魅に喰われたという事も思い出す。

「私……、死んだ……の?」

 状況から考えて見れば、それは当然であって当たり前なことで――、そうなると自分がいる場所も何となく察しがついてしまう。

 ――そう……。

「ここは死後の世界?」

 声にならない声――、誰かが聞いているとも思えない世界で一人、自分だけが理解できる思考をした。
 それと同時に、身体なんて無いのにギュッ! と、胸が締め付けられる想いが心の中を――、内側を占める。

「……わ、私……」

 先輩と……、山岸直人さんと喧嘩したまま、死んでしまった。
 その事実に――、私は自分自身を責める。
 どうして、素直になれなかったのか! どうして、好きだと! 愛しているのだと! 彼にハッキリ告げることが出来なかったのか! 本当は、薄々――、気が付いてはいた。
 彼が、私以外の何かに心を傾けていることなんて……。
 だけど――、私は見て見ぬふりをしてきた。
 何故なら、彼が私のことを後輩としてしか見ていないと言う事に何となく分かってしまっていたから。
 私が女になってから、明らかに彼は私から距離をとった。
 そんなことは分かっていた。
 だから……、勇気が持てなかった。
 言ってしまったら――、自分の想いを――、気持ちを告白してしまったら、先輩と後輩という関係すら壊れてしまうのでは? と、感じていたから……。

「私は、なんて馬鹿なんだろう……」

 死んでから後悔するなんて……、死んでから気が付くなんて……。
 死の瞬間まで彼が守ってくれる――、助けてくれると信じていた。
 それは、彼を――、山岸直人さんを本当は求めていた事に他ならないのに……。

「もう……」

 そう――、過ぎ去ってしまった過去を変えることなんてできない。

「だから――」

 私は、「もう仕方ない、諦めよう」と、絶望し思ったところで――、唐突に鈴の音が鳴る音と共に視界内に見た事があるプレートが表示される。
 それは魔法を選択していた時に表示されていたテンプレート。
 私は、テンプレート内に表示されていくログを見る。



 ――スキル「大賢者」がコンタクトを求めてきています。



 ただし、そのプレートに表示されているログは私が見た事がない文字で、スキルなんて存在を私は知らない。
 ただ――、何となくだけど……、その「大賢者」という項目を何となくだけど知っている気がする。
 コンタクトに応じるか否かは『YES/NO』で表示されている。

 自分が死んだという可能性。
 そして、どうしようもできない状況に、私は震える指先で『YES』の項目を選択した。
 それと同時に、目の前に銀色の粒子が舞い初め一つの人型を作っていく。
 それは――、見た事がある人物像をしていた。

「あなたは……」
「お久しぶりね。佐々木望」

 目の前には、上落ち村で会ったことがある一人の女性――、山岸鏡花が姿を現した。





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