【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
VS木魅 第三者side
山岸直人が吼えたと同時に、殺到した無数の石――と、思われていた金剛石に近い強度を持つ触手が変化した槍が無数の欠片となって砕ける。
それと同時に、山岸直人を中心に黒い竜巻が発生――。
「――な、なにが……、何が……起きている?」
山岸直人を見ていた木魅が、目の前で発生している現象を理解できずに――、その強風により後方へとたたらを踏んだところで風が止む。
「――なっ!?」
思わず木魅が声を上げる。
竜巻の中から現れたのは黒の獣であり、巨大な黒い犬――、先ほどまで人であった者とはまったく異なる姿。
「ガアアアアアア!」
凡そ人とは限りなく離れた姿――、そして、その体躯から発せられた万物を恐怖させるかのような声はダンジョンの地下最下層である大空洞の壁に無数の亀裂を発生させていく。
「――な、なんなのだ……、貴様は一体――、何者なのだ!?」
「グルルルルルルルッ」
木魅の声が引き金となったのか、獣の金色に光る縦に割れた二つの眼が声を発した木魅に向けられると同時に、その姿が掻き消え――、次の瞬間――、木魅の頭部を獣の手が掴むと同時に音速を超えた速さでダンジョン内の壁に叩き付けた。
――そして一瞬遅れて、音速を超えた事で発生した風圧が周辺の石壁や石畳を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた残骸は一つ一つが数百キロもありあたりに散らばる。
そして――、その一つが先ほどまで存在していなかった石の山へと激突し――、重厚な音を鳴り響かせる。
その音は、石の山の中の空洞で意識を失い横になっていた相沢の意識を覚醒させた。
「……うっ……」
先ほどまで神気の呪いに当てられて生死の境を彷徨っていた相沢が音で目を覚ます。
「ここは……、一体……、何が起きているの?」
彼女は、自分が囲っている石壁に手をあてて状況を確認しようとするが、押そうとしても動かせるわけもなく――。
「さっきまでは、私は……」
そこで彼女は自分が得体の知れない化け物に言葉一つ――、睨まれただけで息が出来なくなり意識を失ったことに気が付く。
「山岸さんは……? それに佐々木さんは……」
周りを見渡す相沢。
だが、彼女の周辺全てを石壁――、山岸直人が作り出した魔法「大国主神(オオクニヌシノカミ)」が囲っており外を見通すことも出来ずにいた。
聞こえてくるのは戦っているであろう音――、それだけ。
「まさか……佐々木さんと戦っているの? 私を守る為にコレを?」
彼女が、そう思うのは当然と言えば当然であった。
そんな中、壁に叩きつけられた木魅は、緑色の血を吐き自身を壁に押し付けている腕に自らの手を絡ませ引き剥がそうと抗っていた。
「おのれ! この知れ者め! 人間の分際で!」
「コロス」
獣の口から出た言葉は明確な殺意――。
それは、神となり抗う為に力を振るおうとした木魅へと言霊となって降り注ぐ。
そして獣は、木魅の頭部を掴み、壁に押し付けたまま大空洞の中を音速を超えた速さで疾走する。
木魅と壁の間に摩擦による火花が散り、衝撃波が発生し周囲を文字通り粉々に粉砕していく。
「アガガガガガガ」
木魅の口から声とはならない音が漏れる。
それと同時に、千は下らないレベル1000を超える触手が獣に殺到するが――、それらが近づくと同時に木魅の頭部を掴んだまま振り回し触手を粉砕していく。
「グルルルルル――」
全ての木魅の眷属を粉砕したところで上空へ木魅を放り投げ――獣は口を開く。
無数の銀色に輝く牙――、そして漆黒の咥内。
その獣の顎を中心として金色に輝く光が集束していく。
「シネ!」
声が大空洞内に響くと同時に、直径100メートルを超える巨大な極光が、木魅を呑み込む。
「ギャアアアアアアアッ」
迷宮内に響く渡る木魅の絶叫と金色に輝く極光の破壊音。
極光は、上層に存在する全てのダンジョンを量子レベルで消し飛ばす。
ダンジョンを消し飛ばすだけでなく――、避難が終わっていた地上の建物を消滅させ――、さらには大気圏外の人工衛星すら吹き飛ばし塵と化す。
そして――、上層階層まで吹き飛ばされ落下してくる物体。
それは、木魅。
「カハッ……。ば……、ばけ……もの……」
そう呟く。
落ちてきた消し炭と化した身体。
それを確認しつつ、目の前に存在している巨大な黒い獣を恐怖の眼差しで見上げながら呟くが、その死に体とも言える身体を黒い獣は踏み潰す。
「コロス、コロス、コロス」
獣は銀色の爪を手から生やす。
そして振り上げ――、振り下ろす。
「ギャアアアアアアア」
木魅の緑色の右腕が引き裂かれ緑色の血をまき散らしながら遠くまで転がっていく。
「――や、やめて……」
懇願する木魅であったが――、
「コロス――」
それに答えたのは明確な殺意。
「――ヒッ!」
獣の声に戦慄した声で返す木魅は、獣に押さえつけられていた身体を切り離すと必死に這いずりながら逃げようとする。
ズルズルと、緑色の液体を石畳に擦り付けながら逃げる姿に神と語っていた威厳はすでに存在しておらず地を這いまわる虫のように哀れであった。
その羽虫に音も立てずに近づく獣。
その存在感――、威圧――、そして忍び寄る死! と、言う恐怖に耐えかねた木魅は――。
「――た、たすけ……て……、そ、そうだ……、妾と汝が力を合わせれば、どんな神々ですら屠ることができ……」
その言葉は最後まで続かない。
向けられた眼は怒りの色に染まっている金色であり――、そこには怒り以外の感情は存在していない――、その事にようやく気が付いた木魅は、眷属を無数に生み出すが、それらは獣が振るう爪により瞬時に塵と化す。
――そこで、ようやく星のダンジョンからの情報が、木魅にある真実を伝える。
「――あ……」
始め発した声は、言葉にはなっていなかった。
「あ、あああああ……、ああああああああああ――、いやじゃ! いやじゃ! こんなものが! こんなものが! この世界に存在するというのか! やめてたもれ! 妾が悪かった! 神なぞやめる! だから! だから!」
「シネ!」
獣は手を振り上げる。
その爪は3本。
全てが銀色に輝き――、微細な振動を奏でている。
「いやじゃ! こんな化け物がおるなぞ、妾は知らなかったのだ! じゃから――」
最後まで言い終える前に獣の爪が木魅の身体を神格ごと消し飛ばす。
それと同時にダンジョンコアも粉々に消し飛ばしダンジョン最下層の大空洞すら大半が量子レベルへと分解された。
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