【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

憎しみの連鎖



 ずいぶんとレベルの高い魔物がいると思いつつ、相沢を石畳の上に下ろす。
そして――、俺がぶち抜いた各階層の床や天井の残骸が断続的に落ちて埃を巻き上げる中、スキル「神眼」で周囲を見渡すが――、ある一点を見て俺は目を細めた。

 そこには佐々木と同じ姿形をした魔物がいたからだ。



 ステータス

 神性属性:信仰力 12000
 名前 木魅
 年齢 1261歳
 身長 ??
 体重 ??

 レベル 10000
 HP 100000/100000
 MP 100000/100000

 体力9999
 敏捷9999
 腕力9999 
 魔力9999 
 幸運9999 
 魅力9999 

 ▽所有ポイント  0 



 レベルは1万――、戦闘力などを含めて俺が今まで戦ってきた最強とも言える夜刀神のステータスに匹敵する。
 問題は、どうして佐々木望の姿と同じなのか? と、言う点だが……。
 スキル「神眼」は、そこまでは表示していない。

「山岸さん……あれって……」
「どうかしたのか?」
「あれって……望(のぞみ)ちゃんじゃ……」
「何を言って――」
「ほう……、やはり喰らった者の記憶にある通りピーナッツマンというのは山岸直人が化粧していた事で合っているようであるな」
「……」

 語り掛けてきた魔物――、緑色の肌を持つ木魅という存在に俺は無言で視線を向ける。
 それと同時にスキル「神眼」で、その情報を読み取ろうとするが、俺の後輩である佐々木望の情報を示すものは何一つ視界内に表示されることはない。

 いままで、スキル「神眼」が空いてのステータスやレベルや情報を看破できなかったことはない。
 つまり、あれは佐々木望では無いと言う事になるが……。

「……く、喰らった……? ――な、なにを……言って……」

 どう動くか思考していた所で、木魅の声に返答したのは相沢で――、その言を聞いた魔物が凄惨な――、佐々木とは掛け離れた表情で笑う。

「文字通りの意味だ! こやつの存在! 佐々木家に生まれた者の定め! 妾の生贄としての存在を言葉通り喰らい尽くし完全なる神として受胎したのだ!」
「じゅ……受胎……? 神? 何を言って……」

 理解が追い付かないのか、相沢は瞼を大きく広げながら、俺の袖を振るえる手で掴んでくる。
 その手に俺は静かに自らの手を添えると共に、

「つまり、お前は佐々木を――、俺の後輩を……」

 最後まで言い切る前に――、確認する前に――、木魅は大きく両手を開く。
 すると小さく鳴動を繰り返す赤い衣装――、着物を俺に見せつけてくるように身体を、その場でクルッと一回転させると――、

「先輩っ! 私、お守り様に全てを捧げて殺されたのっ! あんなに助けてって言ったのに! 先輩は、私を好きだって言ってくれたのに! 守ってくれると思っていたのに! 相沢なんて人と逢引していたんですよね? 私は、先輩をずっと想って! 心配して! ダンジョンに入って、捕まって死んだのに!」

 ――そう、語りかけてくる。
 芝居掛かった動きで――、後輩の……、佐々木の声で――、楽しく笑いながら……。

「佐々木……」
「ひどいです……。こんなに先輩のことを思っていたのに、私のことは名前では呼んでくれないんですか? ハハハハハハッ」

 俺の神経を逆撫でするかのように、木魅は笑う。
 壊れた歯車のように――、壊れたラジオのように――、笑う……笑う……笑う……。

「愚かな! 人間は、なんと愚かな! そうであろう? そうであろう? のう! ピーナッツマンとやら! ――いや、山岸直人と言うべきかの?」
「……一つ聞かせろ」
「ほう? 妾に、そのような大言壮語を吐くとは身の程を知るべきであろうか?」

 目の前の佐々木と肌の色、目の色、髪の色まで違うが姿形は似ている木魅が指を鳴らす。
 それと同時に石畳の床から何十本もの石の触手が槍を彷彿とさせる勢いで殺到してくる。
 俺は相沢を抱きかかえると共に、その場を飛び退く。

 移動を終えると同時に俺が立っていた場――、石畳には触手が刺さり床を粉々に粉砕していた。

「動きは、それなりと言ったところか……、面白い! 人間とは思えないほどの力――、レベルは1000程度と聞いておったが、魔法で底上げをしていると見た。いままで、死せる迷宮に入り込んだ者共を喰らい力にしてきたが、貴様の存在も喰らい尽くし妾の力にしようではないか!」
「……え? 迷宮に入り込んだ?」

 その木魅の発した声に反応したのは、圧倒的な力の前に身体を震わせていた相沢であった。
 
 
 
 



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