【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

生贄の祭壇(9)第三者side




 雄三の腹から血が滴り落ちる。
 ポタリ……ポタリ……と、音を立てて――。
 そして、その血は、割れた灰色の石畳の上に広がっていき――、赤黒く染めていくがすぐに色合いが薄くなり消え去る。

「雄三、貴様に与えていた力――、返してもらうとしよう」
「……お守り様……、いや――木魅(こだま)……様……」
「その名で呼ばれるのは久しいのう。そうであろう? 佐々木(ささき)雄三(ゆうぞう)……景昌(かげまさ)よ」
「お戯れを……」

 その言葉に、木魅は真っ赤な唇を開く。

「そうだな……。だが――、貴様との契約は守ろうか」

 石の触手で腹を貫かれ、そのまま壁に向けて用済みとばかりに投げ捨てられる雄三の身体。
 ――そして、壁に激突すると同時に石壁と接触した雄三の身体を中心に数メートルの亀裂が壁に走る。
 口から、血を吐き出す雄三の顔は土気色に代わっており、まったく生気が感じられない。
 すでに死にたいと言っていいモノであった。
 そのまま、叩き付けられた石壁からズルズルと下がっていき――、石畳の上に雄三の身体はドサッ! と、言う音と共に倒れる。

「あ、ああ……」

 一部始終を見て――、そして聞いていた絶望した。
 何故なら、いままで圧倒的な存在を示して自分や両親を支配していた佐々木雄三という恐怖の存在が意図も容易く殺されたことに。
 そして、それを行った目の前の女性に――、木魅という得体の知れないお守りという存在に。

「そう、悲観することもない」

 誰もが見惚れる程の笑みを佐々木望に向ける木魅。
 だが、その表情こそ佐々木望にとって恐怖以外の何物でもなかった。
 化け物のような表情で話しかけられた方がまだマシだったのかも知れない。
 まだ取り繕うことが出来たのかも知れない。

「貴様の血肉の大半は我と既に同化が済んだ」
「いやっ……」

 たしかに木魅の言う通り、佐々木望の身体の大半は緑色に変色していた。
 そして、顔にも緑色の欠陥が無数に浮き出ていて……、彼女の身体を浸食し――、それは脳にまで届く。
 思い出を破壊され――記憶を破壊され――魂の根源まで犯されていき――。

「消えたくない……。こんなの……」
「無駄な抵抗はやめよ。貴様ら、佐々木家一族は、妾と契約を行い――、力を得た。他者を殺し、踏みにじり、そして――、自らの欲望の為にの。その代償に過ぎない。さあ! 妾を売れ入れるとよい!」
「いや……っ……せ、せんぱ……、なお……と……さ……」

 最後まで、思い人の名前を口にする前に、佐々木望の全ては木魅に食い尽くされて、その血肉は全て木魅の力となる。

「素晴らしい! これは! ハハハハハッ!」

 契約をし――、受胎を果たした木魅は高らかに笑う。
 身体の色は、緑に染まり、目は黒と緑のコントラスト。
 腰まで伸びていた美しい黒髪は緑と化す。
 完全に肉体を掌握した木魅は、自身の身体を確認すると共に指を鳴らす。
 すると無数の赤い触手が彼女を多い繭と化し――、佐々木望の身体を多い尽くし――、繭の中で変態を終えた女が姿を現す。
 姿形は変わってはいない。
 ただし、赤い植物を編んで作られた着物を纏っていた。
 その様相は、人とは間違いなくかけ離れていて――。

「くくくっ……、レベルが1万か! 素晴らしい! すばらしいぞ! 神力も上がり続けている! 3000、4000、5000……、これが神になったということか! ふははははは! さあ! 地上の日ノ本の人間を喰らいつくし全ての神々を喰らい、この世界を手中にしてしんぜよう!」

 佐々木望の全ての存在を消去し力を手にいれた木魅は手を振るう。
 それだけで、数千もの木魅の眷属が石畳を破壊し姿を現す。

「――さあ! ダンジョン内に入ったピーナッツマンとやらも、床を強化したことで侵入を諦めて地上へ戻った! あの者の力は脅威であったが、いまの妾ならば幾らでも対処が効くであろう! さあ! 子らよ! 全ての生きとし生けるものを喰らいつくすのだ!」

 一斉に、レベル2000を超える触手が地上に向けて這い出ようと蠢く。
 その時であった。

 突然、大空洞の天井が粉砕される音と共に、相沢を抱えたピーナッツマンが上空から音速を超えた速度で落下すると同時に、無数の触手を踏み潰したのは――。





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