【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

生贄の祭壇(5)第三者side




「とにかく駄目よ? 何か、あってからじゃ遅いのよ?」
「――で、でも……」

 尚の事食い下がろとしてくる佐々木望。
 そんな娘に近づき両肩に手を置く香苗。

「通信機器の故障なのでしょう? それなら、鳩羽村ダンジョンの難易度は、そんなに高くないって日本ダンジョン探索者協会は発表しているのだから、強いモンスターが出てきたといっても、それほどではないでしょう?」
「そんな事ないと思う……。だって、職員が対応できないモンスターって、かなり強いと思うから……、だから私のところに頼みに来たと思うし」

 尚のこと食い下がってくる娘に、香苗は心の内側で何かあるのだと察してしまう。
 
「もしかしてダンジョンに誰か親しい人がいるの?」

 母として――、そして女として確証めいたモノを感じ取った香苗は、娘の望に対して問いただす。
 それに対して、望も小さく頷く。

「――そう……」

 言葉では説得できない何かがあるのだと直感した香苗は小さく溜息をつく。
 それと同時に、スタッフルームには職員が居る事に気が付き、小さく咳をつくと――、無言で娘の手を掴み、スタッフルームから出ると旅館の裏手まで小走りで向かい――、到着。
 誰も居ないことを確認したところで――、

「それで、本当は何があったの?」

 問いかける香苗の視線は、真剣そのもの。
 本当のことを言いなさい! と、言わんばかりであった。
 その為に、佐々木望も――、

「先輩が……、山岸さんが相沢先輩と一緒にダンジョンに潜ったみたいなの」
「相沢って……、この前――、旅館まで直人さんを連れてきた?」
「うん……」

 山岸直人を、相沢が車で連れてきたことを母親が知っていた事に驚いた佐々木望は小さく呟き肯定する。
自分達が仲違いをしていることを、母親が知っていたことを驚きながら。

「お母さんは知っていたの?」
「――え? 貴女と山岸さんが喧嘩をしていたこと?」
「……う、うん……」
「それは知っていたわよ? 何年、旅館の経営をしてきたと思うの? 従業員の機微に鈍感だとやっていられないわよ?」
「そうなの?」
「そうよ……、それよりも困ったわね」
「――え?」
「貴女も相沢さんのお宅の事情は知っているわよね?」
「たしか……旦那さんが蒸発したって……」

 実家に戻って来たばかりで――、尚且つ旅館の仕事に専念していた佐々木望にとって――、鳩羽村の事情は大まかでしか理解は出来ていなかった。
 それは、先輩の相沢の家の事に関しても同じで――、

「正確には違うのよね」
「違う?」
「そう。相沢さんの家の旦那さんは兼業の冒険者だったらしいんだけどね……ダンジョン内で行方不明になったって噂があるのよ? 実際、相沢さんの奥さんは旦那さんを探す為に何度もダンジョンに潜っていたみたいだから……」
「それって……」
「山岸さんは、人からの頼みを断れないって感じでしょう? 旅館の再建に尽力してくれているのも、彼が望を助けたいからって理由だからだと思うから」
「――う、うん……」

 母親の言葉に頷く佐々木の頬は赤い。

「そうすると、彼が相沢さんに旦那さんを探す依頼をして受けた可能性は非常に高いのよね」

 そういう事情なら先輩なら頼みを受けるかも知れないと考える望。
 ただ――、それは宮本あきらの話を肯定することに繋がる。

「やっぱり私!」
「どうしてもいくの?」
「うん……。すぐに戻ってくるから!」
「はぁ……」

 本当は行かせたくないと思うのは親心。
 それに佐々木家本家と鳩羽村支部の関係性も公然の秘密となっている事を知っている香苗は、どうしたらいいものかと溜息をついた。

「わかったわ。言ってきなさい。――でも、絶対に危険なことはしないのよ?」
「うん。ごめんなさい」
「いいわ。しばらくダンジョンアイテムについては金庫に入れておくから」

 母親の許可を得た佐々木望は首肯すると、宮本あきらが待っている旅館の駐車場へと急いだ。





 

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