【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
生贄の祭壇(2)第三者side
――コンコン。
「……まだ帰ってきてない……」
山岸直人が泊っている旅館『捧木』の一室。
そこに訪れていたのは、若女将として身なりを整えていた佐々木(ささき)望(のぞみ)であった。
佐々木望は、鍵を懐から取り出すと扉の鍵穴に鍵を入れ回す。
ガチャリと言う音と共に扉が開く。
彼女は、静かに室内に入り中を見るが――、
「やっぱり……、あれから帰ってきてないの?」
佐々木望の静かでいて落ち込んだ声色が、主が居ない室内に木霊するが、答える者は誰もいない。
「やっぱり……、私――、間違っていたのかな……」
当の本人である佐々木望が、ずっと心の片隅で引っかかっていたこと。
それは、横柄な利用客の一人に対して山岸直人が利用しなくてもいいと突っぱねた事件が絡んでいた。
現在の旅館『捧木』のオーナーは山岸直人であり、そのことを知っていた佐々木望は、山岸直人に何かあったら困るからと、山岸直人が宿泊拒否した人物に利用を許可したのだ。
そのことがあってから、佐々木望の想い人であり現在の旅館のオーナーである山岸直人が、旅館に帰ってこなくなった。
そのことに彼女は――、
「わたし……、どうしたらよかったのかな……」
深く溜息をつきながら憂鬱な表情で、窓の外へと視線を向ける。
視線の先には、日が暮れたという事もあり鳩羽村の商店街の明りがよく見て取れた。
「私が、村を出ていってからずいぶんと変わったわよね……」
以前は、寂れた商店街に過ぎなかった鳩羽村商店街は、多くの冒険者を受け入れた事で消費が拡大した結果――、急速に発展を遂げており、昔の面影は、どこにも見られない。
そんな光景を、少し寂しそうに見ながら唇を噛みしめたあと――、
「また……相沢先輩の所に行っているのかな……。それに……、本家が何も言って来ないのも気になるのよね」
佐々木家本家は、利益に聡い。
プレオープンで、官僚や日本の有力者が満足そうに利用している旅館に口を出してこない事が彼女には不思議でならなかった。
「若女将、こちらにいらしたのですか」
思慮に暮れていたところで、部屋に入ってきて声を掛けてきたのは入ったばかりの中居見習い。
「泉さん? どうかしたの?」
「はい。実は、日本ダンジョン探索者協会の方が来られていまして――」
「日本ダンジョンの人が?」
首を傾げる佐々木。
「はい。いまはホールに居られます」
「分かったわ」
新人の中居と部屋を出て鍵を掛けた佐々木はホールへと向かう。
すると、ホールには背広を着た20代の男性が二人と――、
「突然の訪問、誠に申し訳ありません」
「いえ。それより、どうして……」
もう一人――、話しかけてきたのは日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部の支部長である宮本あきら。
「じつは、ここでは話が出来ない問題が起きておりまして――」
「話が出来ない? それは、どういう事でしょうか?」
佐々木望の声に緊張の色が混ざる。
鳩羽村支部と、佐々木家本家は裏では繋がっているのは鳩羽村に住んでいる人間なら知らない人間はいない。
つまり、鳩羽村支部の支部長が直接旅館まで来たという事は、何かしらの不利益を佐々木達に齎す可能性があると佐々木は考えたのであった。
――だからこそ、佐々木は話を聞くつもりは無かった。
「じつは、ピーナッツマンさんが危険な状況に置かれているんです」
「――え?」
彼女の想い人が危険だという話を聞くまでは――。
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