【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
世界情勢(6)
悲痛な表情を見せるが、俺にとって佐々木の身柄確保が最優先。
その事に代わりはない。
そもそも俺を脅してくるどころか、戦うことすら――、自分の身すら満足に守れない人間を一緒に連れていくなど、ナンセンスだ。
「分かったなら、お前は藤堂や自衛隊の連中と共に鳩羽村から避難していろ」
「いやです……」
通り過ぎようとした所で、俺の着ぐるみを掴んでくる相沢に俺は深く溜息をつく。
「相沢、言っておく。今のお前ではダンジョンに潜っても殺されるだけだ。戦う意志がない奴はダンジョンには潜るな」
「――で、でも約束して……」
「約束はしたが事態が変わった。それくらいはお前にも分かるだろう?」
「…………」
深い沈黙。
「分かっています……。本当は、全部……、貴方が手伝ってくれたって事も……、戦う方法もわざと私に戦わせて学ばせたってことも……だけど……」
「本当の恐怖を知る事は無かった」
「はい……」
「自分が死ぬと本能で理解したから、お前は戦う事が出来なくなったんだろう?」
俯いたまま小さく頷く相沢。
面と向かって否定しないあたり思い当たる節はあったということか。
「それでも! 何もしないで! もう後悔だけはしたくないんです!」
「自らの身すら守れないのにか?」
「克服してみせます!」
顔を上げて、俺の目を真っ直ぐにみてくる瞳にはどこか覚悟があるように思えたが、正直言って一つだけ言っておかなければいけない事がある。
「相沢」
「……はい」
「お前も理解しているとは思うが、お前の旦那はほぼ100%、ダンジョン内に居た場合には生存はしていない。それは分かるな?」
「……」
無言で唇を噛みしめている様子から、理解はしていたようだ。
そもそも、あんな植物のモンスターが大量に発生した時点で殆どの人間は生きてはいないだろう。
トップランカーの戦国無双のギルドメンバーですらギリギリだったのだから。
「それでも、お前はついてくるのか?」
「覚悟は出来ています!」
「そうか」
覚悟が出来ているならいい。
そして戦う気があるなら、それを何とかするという気持ちがあるのなら、尊重するとしよう。
少なくとも手伝ってやるとは約束したからな。
「や――、ピーナッツマンさん」
藤堂が駆け寄ってくると、俺の名前を呼びかけたところですぐに名前を変えて――、
「どうかしたのか?」
「いえ。お見送りを――。それより彼女は?」
「ダンジョンに一緒に連れて行くことにした」
「「――え?」」
藤堂はともかく相沢が驚くとは心外だな。
俺は約束を! ある程度は守る男だ。
「ほんとに連れていくんですか? 彼女――、相沢さんは戦う事が出来ないと報告を受けていますけど……」
「約束は約束だからな」
「約束?」
藤堂が首を傾げてくるが――、
「ああ、コイツの旦那が行方不明になった事を調べる手伝いってところだ。そういえば藤堂、相沢の旦那の事について日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部が何かを隠していたら報告を上げてくれ」
「調べておくって事ですね」
「頼めるか?」
「はい! お任せください!」
「それじゃ、あとは頼む」
「はい! それと――、相沢さん」
「はい……」
「この人に、あまり迷惑を掛けないください。基本的に彼は人からの頼みは断らないので――、もし! 彼に! 何かあれば!」
藤堂の声のトーンが少しだけ下がる。
それに伴い相沢の喉が鳴るが――。
「あまり脅すな」
「は、はい……」
シュンとなってしまう藤堂の頭を軽く撫でる。
「山岸さん……」
「おい、俺の名前が漏れているぞ」
「ハッ! すいません……」
「まぁいいが……。とりあえず何かあったら連絡をくれ」
「分かりました」
少しだけ顔を赤くしている藤堂に送り出され日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部の建物から出る。
「あの、またダンジョンを降りていくんですよね?」
「――ん? まぁ、そうだな」
話しながら、ダンジョン入口を取り囲んでいる陸上自衛隊の人壁を通り抜けてからダンジョンの――、地下に通じる階段を降りていく。
そして――、1階まで降りたところで。
「とりあえず、まずは最下層まで降りるとするか……」
地面の――、石畳を軽く蹴りつける。
すると強固な反発が――、衝撃が足に伝わってきて――。
「壊せない? どういうことだ?」
「山岸さん、どうかしたんですか?」
「よく分からないが、ダンジョン内の床が壊せなくなっているな」
「それって! 通常攻略をする感じに?」
「そうなるな……。そういえば、さっき壊した通路の穴も塞がっているしな」
やれやれ……、そうなると攻略に時間が掛かるな。
「仕方ない」
「山岸さん、どこに!?」
とりあえず、一度ダンジョンから出る。
その後を相沢が付いてくるが――、
「たぶん勢いをつければ壊せると思う」
「――え? そ、それって!? ――きゃっ!?」
抱き上げたところで小さく女性らしい声を相沢をあげるが――。
「口を閉じていろよ? 話していたら舌を噛むからな!」
「そ、それって――、どういう……」
相沢の言葉を最後まで聞かずに――。
「大国主神(オオクニヌシノカミ)発動!」
声高々に魔法名を告げると同時に――、周囲に数メートル高さの強固な岩盤の壁が作り出され――、それが俺と陸上自衛隊を隔てる壁として一瞬で形成される
「い、一体!?」
「限界突破LV10!」
さらにスキルを発動!
全ステータスが飛躍的に強化されると同時に俺は地面を蹴りつける。
それだけで岩盤が砕け散り――、周囲に爆発的な衝撃波がまき散らされ――、自衛隊と俺達を隔てていた岩盤が衝撃波と破壊されまき散らされた石を受け止めていた。
「きゃあああああああ」
抱きかかえていた相沢が必死に俺の首に両手を回しながら叫んでいたが、それは無視。
「――さあ! いくぞ!」
上空数千メートルまで跳躍した俺は、そのまま空間を蹴りつけ地表に向けて音速の数倍の速さで落下し――、コンマ数秒で地表に衝突。
階下の岩盤を粉々に粉砕し――、さらにダンジョンに到達。
強固な通路と化していたダンジョンの床も紙細工のように引き裂きながら次々とダンジョンの通路を破壊していく。
ダンジョンの床を破壊しながら落下しつつ、スキル「神眼」で通り抜けるダンジョンの階下を確認していくが人間の生存数は無し。
「やはりか……」
――そして、わずか数秒で地下100階に到達。
最後のダンジョンの床を貫くと同時に、巨大な広間に到着すると同時に何かを潰した感触が足元から伝わってくると同時にログが流れる。
――神霊:木魅(こだま)の眷属LV1366 を討伐しました。
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