【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

世界情勢(5)



「――だが……、ロシアにもダンジョンはあるんだろう? モンスターが出てきていたりはしないのか?」
「それに関してですが――、レムリア帝国の兵士と幹部の一人が対応しているという情報がさる外交筋から入ってきています」
「外交筋?」
「はい。情報源は機密扱いと言う事で私の立場では……」
「なるほど……、つまりロシアとレムリア帝国は手を結んだと見ていいな」
「その可能性が一番高いかと」

 また厄介な……。
 国際的テロリストと称されているレムリア帝国と、手を結ぶというのがどういう事なのかロシアは理解してないようだ。

 ――いや、汚名よりも実利を取ったと考えれば合点がいくか。
 そうなると……。

「中国が持つ領土の分割統治が目的の可能性が高いな」
「はい。恐らく内乱を誘発させているのも、その目的が高いと日本上層部は考えているようです。それに……、アメリカ合衆国も第七艦隊が消滅し、空母の保有率は中国よりも減っていた事から、今回の中国で起きている問題には関与しない可能性もあります」
「そして他国は、ダンジョン活性化の影響を抑えるのに必死に身動きが取れないと」
 
 俺の呟きに藤堂が頷くのを見ながら俺は溜息をつく。

「大体の事情は分かった。それで日本はどうなっている? ダンジョンの数が、もっとも多いんだろう?」
「そのことですが……」

 難しそうな表情をして――、

「正直、分かっていません」
「どういうことだ?」
「SランクからBランクにかけての……日本に存在するダンジョンに関しては陸海空の自衛隊が全て対処する事になっていまして、そのダンジョン周辺地域からは民間人は遠ざけられている状態で……」
「つまり、秘密裏に対応していると言う事か?」
「国家非常事態宣言が6時間前に出されてから、一切の情報がシャットアウトされている状態です。日本のマスコミや野党の追及にも、一切応じていません……」
「ふむ」

 思わず唇に手を当てながら俺は考え込む。
 まぁ日本の場合は世界に存在しているダンジョンの9割が集まっているのだから、それを抑える為には相当、無茶な手段を取らないといけないというのは分かっている。
 問題は、その手法だが……。

「藤堂、陸上自衛隊の平均レベルは知っているか?」
「いえ――、正式にはレベルの公開は一切されていませんので……。それが、何かあったんですか?」
「いや――」

 そういえばそうか。
 ダンジョンの中に入らないと、藤堂達一般人はレベルを見る事が出来ない。
 それはつまりレベルの隠蔽が可能と言う事だ。
 たしか以前に、レベル補正の恩恵があるのはダンジョン内だけだと聞いたことがある。

 ――だが! それはレベルの話であって魔法は別物。

 佐々木が魔法を普通に使っていた事から、魔法に関してはダンジョンから出ても使うことが出来る。
 そうなると――、厄介だな。

「藤堂、お前は宮下防衛大臣の近くに居てくれ」
「やっぱり何かあったんですか?」
「いや、何かあったとかではなく何か起きそうというのが本音の所だな」
「……分かりました。それでは、何かありましたらギルドチャットで報告します」
「頼む。ギルドチャットに関しては俺達の秘密にしておいてくれ」

 まぁ、バレている可能性も捨てきれないが、それでも自分達から情報を開示するという愚行を犯す必要はないだろう。

「――さて……」

 話しが一段落したところで俺は、部屋のドアを開ける。

「それじゃ行ってくる」
「気を付けてください」
「ああ……」

 部屋を出てエレベーターを使い1階まで降りる。
 ホールを抜けようとしたところで――、

「あの……」
「相沢か――、どうかしたのか? 自衛隊と一緒に避難した方がいい」
「わ、私も……、一緒に!」
「戦えない者が、どうするつもりだ? 足手纏いにしかならないぞ?」
「でも!」

 短い言葉で否定してくる相沢。
 その瞳は揺れていて何かを迷っているのは明らか。

「ダンジョンが攻略されたら……、あの人に会えなくなってしまう気がするんです! だから!」
「……」
「だから!」
「着いてきたいということか?」
「だって……、貴方なら、ダンジョンを攻略できますよね? 望ちゃんも、ダンジョンを攻略出来たんですから! それにピーナッツマンさんも佐々木さんを助けに行くつもりなんですよね?」
「だから、お前は連れていけないと行ったんだが? 足手纏いは必要ない」
「――ッ!」


 

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