【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

世界情勢(1)




 日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部のビルの最上階フロア。
 会議室であろう場所に通されたところで、

「ピーナッツマンさん!」

 少し早い歩みで近寄ってくるのは、藤堂(とうどう) 茜(あかね)。
 内心、溜息をつきながら俺は室内に入ってきた俺を注視してきている高官と思われる自衛官やスーツをビシッ! と着こなしている官僚に、ニュースなどで見たことがある政治家連中へと視線を向けたあと、藤堂へと視線を戻す。

「藤堂、現状はどうなっている?」
「――え? あ……、はい……。えっと、頼まれていた佐々木さんの件ですが、やはりダンジョンから出てきたという報告は上がっていません。それどころか、彼女に同行したと思われる探索者達の情報も上がってきていません」
「なるほど……」

 親しげに近づいてきた藤堂に事務的に接することで、あくまでも仕事面の付き合いという形で周囲に見せつけながら俺は声の抑揚を抑え頷く。
 
「戦国無双のギルドの連中からの情報は?」
「それに関しては、幾つかの証言が上がってきています」
「ふむ」
「今までは、ギルドの体裁を考えて黙秘していたようですが、ギルドマスターの織田より情報提供がありました」
「そうか――で?」
「こちらを――」

 渡された資料に書かれているのは全部で4人。
 全員が、何かしらの暴力沙汰を起こしているのが書かれている。

「警察組織は動いていなかったのか? それか日本ダンジョン探索者協会は、こいつらを放置していたのか?」

 冒険者が、ダンジョンの外で暴力沙汰を起こした場合には、日本ダンジョン探索者協会や警察が鎮圧に動く。
 それが鉄則だったはずだ。

「それが、戦国無双のギルドは西貝と繋がっていたらしく警察組織に強いコネクションがあったようです。それで今までは、事件を揉み消していたそうです」
「なるほどな……、だが――、西貝は……」
「はい。失脚しています。――ですが、今回は佐々木家本家と繋がりを作ったらしく、その関係で……」
「まったく……、厄介なものだな」

 ――いや、もしかしたら……。

「戦国無双は、佐々木家にダンジョン内で取得したアイテムを横流しをしたりしていたのか?」
「はい。いくつかのポーションに、アイテム――、あとは……」
「ヘルメイアの薬か?」
「――え?」
「性別を変更する薬のことだ」
「は、はい。それも納入していたということです」
「なるほどな……」

 何となく繋がりが見えてきたな。
 それにしても戦国無双は問題ばかり起こしている。
 まったく……。

「――で! 戦国無双の連中は今はどうなっている?」
「現在は、自衛隊ダンジョン特殊戦闘群第2部隊が全員を拘束しているそうです」
「ふむ……、あとの捌きは日本政府に任せるしかないな」
「――え?」
「何かあるのか?」

 驚いた表情を見上げてくる藤堂。

「いえ、のぞ……、佐々木さんに関してピーナッツマンさんは……」
「人を裁くのは法だろう?」

 それに、今はそんな些事に関わっている暇はない。
 佐々木の身の安全の方が大事だからな。

「そうですか……」

 少し落胆したような様子を見せる藤堂。
 彼女が何を言いたいのかは今はどうでもいい。
 それよりも――。

「藤堂、これからダンジョンに潜ろうと思っている。特に問題はないな?」
「お待ちください!」

 俺の言葉を遮るかのように横やりを入れてきたのは一人の男。
 男は胸元に幾つもの勲章のような物をつけている。

「誰だ?」
「陸上自衛隊の菊岡陸将です」

 答えてきたのは、話を遮ってきた男ではなく藤堂であった。




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