【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
撤退戦(9)相沢side
私は混乱した。
どうして陸上自衛隊が来るまで待たないのかと――。
陸上自衛隊なら何とかしてくれる。
市民を守るのが自衛隊の職務だと――、そのために貴重な血税が使われているのだと私は思っていたから。
「陸上自衛隊でも無理って……」
私の言葉を彼は即時、「無理とは言っていない。無駄な死者を出すのは駄目だと言っている」と否定してくる。
「――なら、誰がダンジョンを何とかするんですか?」
私は、こんな状況になっているダンジョンをどうすればいいのか、どう対応するのか分からなかった。
混乱している私に彼は、
「それは国と日本ダンジョン探索者協会の仕事だ」
と、突き放すような言い方で答えてくる。
だからこそ――、「山岸さんは?」と、思わず問いかけた。
それに対する答えは――、否定の言葉だった。
彼は自分が対応する案件ではないと言ってきたのだ。
そのあとは、彼と喧嘩別れするような形になり私は事務所として使われている建物から出る。
「あんな薄情な人だとは思わなかった」
多くのギルドが、これからのことを広間で話し合っているのを見ながら、私は隅っこで座り溜息をつく。
「個人事業主だからって――、あれだけの力があるのなら! 彼ならなんとか出来るはずなのに!」
私には思いもつかない方法で、この絶望的な状況を山岸直人という人物なら何とか出来る――、私はレベル3000を超えたところで――そう確信している。
それなのに彼は逃げることを選んだ。
それが私には理解出来ない。
私に――、夫が行方不明になった時に! 彼ほどの力があれば、どれだけ良かったのか! 彼ほどの力があれば何でも出来たはずなのに!
「うっ……」
思わず嗚咽が漏れる。
分かっている。
分かっていた。
そう、本当は――、あれだけの力があるのなら最初から自分で夫を探しにダンジョンに潜る事が出来ていた。
だけど、私には力が無かった。
今だってレベルは3000を超えているけど、凄惨な死と強大な牛のモンスターを見たあとでは戦いが怖い。
手が震えてしまう。
以前に彼は言っていた。
人を殺す覚悟があるのかと――。
でも、それは……人が死ぬ場面を見ても戦う事が出来るのかという意味も込められている事に今になって気が付く。
「これが恐怖……」
戦うことが怖い。
自分が戦うのが――死ぬのが怖い。
安全な場所から動きたくない。
だからこそ――、彼に私は正義の味方というレッテルを貼って戦う事を強要したのかも知れない。
それは、自己の保身とエゴでしかない。
本当に浅ましい行為。
「私は最低ね……」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
それと共に、これから上層階層に移動するのなら魔法は必要不可欠になる事を思い出す。
私は、魔法習得欄から魔法を選ぼうとしたところで――、見知らぬ魔法が表示されている事に気が付く。
「ステータス閲覧……?」
見た事が無い魔法だけど、習得する事にする。
すると視界内に自分のステータスが表示された。
「これって……、他の人のステータスも見ることが出来るの?」
私は、広間で集まっている人達のレベルとステータスを見ていく。
表示されているのは体力、敏捷、腕力、魔力の4つだけ。
だけど、気になっていることがあった。
どのステータスも私より、遥かに低い。
どうして? と、思っていた所で――、日本ダンジョン探索者協会の職員がダンジョンを脱出する話し合いの場を設けると言いにきた。
すぐに冒険者は集まり、これからのことを話していく。
最後に彼は私を指差してきた。
理由は、もう一つしか考えられない。
彼は、私を脱出する人達を護衛する殿として最初に話していた通りに任命してきた。
それと同時に、視界内に表示していた私のステータスが一気に跳ね上がる。
そして、ログが流れる。
――ステータス閲覧の魔法に干渉。
――消去者(イレイザー)からの干渉により、ステータスの更新が行われました。
意味不明なログ。
その時――、私と彼の目が絡み合う。
彼は、ずっと私の方を見てきていた。
それと同時に、確信は持てなかったけれど――、何となくだけど思ってしまう。
急激なレベルアップとステータスの更新は彼が関与していたのではないのかと……。
「現代アクション」の人気作品
書籍化作品
-
-
1
-
-
34
-
-
768
-
-
969
-
-
381
-
-
4503
-
-
6
-
-
1359
-
-
20
コメント