【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

撤退戦(2)




 そう言うと、水上は辺りを見渡し――、「お弟子さんは?」と、聞いてくる。

「外に居ると思うが?」
「そうでしたか。それで用意は出来ましたが一つ問題がありまして――」
「ふむ」
「戦国無双の方をどうしようかと思いまして」
「なるほど……」

 俺としては置いていってもいいと思っている。
 そもそもダンジョン内での生死については自己責任だというのがダンジョン内でのルール。
 そこから考えるとダンジョンを脱出するまでにどうなるのか分からない現状としては、不安定要素は取り除いた方がいいだろう。 
 少なくとも問題を起こした戦国無双については置いていくのが最善の手か。
 そして恐らく俺が戦国無双を置いていくと言えば、その要望は通る可能性は非常に高い。
 何せ、現状は緊急事態。
 他人の身を案じるなとは言わないが無用な問題を引き起こしかねない人間は生存確率を下げることから置いていった方がいい。

 それでも、正体を相沢には知られているからな。
 あまり非人道的な事は選択できないか。

「戦国無双の連中は、傷の手当をしたあと戦線に復帰してもらうとしよう。彼らも一応はSランク冒険者だ。罪を軽くするなどの減刑をチラつかせれば言う事は聞くはずだ」
「それは出来ません」
「組織運用の為にか?」
「そうなります。規律は規律ですので」
「ふむ……」

 こういう所は、公務員が作った組織らしくお固く柔軟な対応に欠けているな。
 
「仕方ない。俺が連れていこう」
「連れていく?」
「とりあえず丈夫な縄を、戦国無双ギルドの――、捕縛した人数分だけ用意してくれるか?」
「分かりました」



 ――20分後。

「これは何だよ! 俺達を縄で縛ってどういうつもりだ!」
「人権侵害だ!」
「そうだ! これからダンジョンを脱出するんだろう? 俺達の力が必要なんだろう? なら! ほどけよ!」

 縄で、ギルド『戦国無双』の連中を縛っていると、懇願や罵倒が絶え間なく飛んでくるが俺は無視して全員を縛り上げた。
 まるで、江戸時代の囚人を連行するが如く。

「まぁ、こんなもんだろ」
「ピーナッツマンさん。全員が揃いました」
「ふむ」

 念のためスキル「神眼」で、冒険者のレベルを確認する。
 レベルは一番下で34、高くても680程度。
 だいたいは80から200付近が多い。
 たいして日本ダンジョン探索者協会の職員のレベルは120から200ほど。
 明らかに冒険者よりもレベルが劣っていて、こちらも戦力にはなりそうにない。

「どうかしましたか?」

 水上が黙っていた俺に話しかけてくる。

「いや、何とスピーチをしたらいいのかと迷ってな」
「そうでしたか」

 納得したかのように何度も頷く水上。

「さて! 諸君! 私がピーナッツマンだ! 日本ダンジョン探索者協会No1の冒険者だ! 今回はダンジョン調査にきたところ偶然にも問題に出くわした! だが! 安心してほしい! この私が諸君らを無事に地上まで送り届けよう! このピーナッツマンが先導し全てのダンジョン内のモンスターを蹴散らしていこう! そして! 殿には私の弟子である! あの者が付くことになる!」

 俺は指差す。
 相沢の方を!
 ちなみに俺に指差された相沢は、すっごく嫌そうな顔をしている。
 まぁ、当然と言えば当然だが――、悪いが此処は利用させてもらう。

「――え? あの人って……、小料理屋の女将よね?」
「ああ、俺も見覚えがあるぞ! あそこの旦那は、冒険者だった。女将も冒険者だったのか?」
「そうなのか?」
「殿って重要な役目なんでしょう? 小料理屋の女将なんかで――」
「私、以前にレベルを見た事があるわ! たしかレベル9だったわよ」
「そんなレベルで殿なんて任せられるのか!?」

 さすがに命が掛かっている為だろう。
 そして狭い村内と言う事もあり情報があっという間に出そろってしまい、不平不満の声が次々と上がっていく。

「諸君! 勘違いしないでほしい!」

 俺は手のひらを冒険者と職員に向ける。
 それは黙れ! と、言う合図でもある。

「相沢は俺の弟子だ。それだけで十分だ。嫌なら自力でダンジョンから脱出してくれ」

 全員の視線が不安に揺れる。
 本当は、相沢がレベルを見せるのが一番良いんだが……。
 俺は相沢のレベルとステータスを確認しながら、それは無理だと考える。
 すでに相沢のレベルは――、
 


 ステータス 

 名前 相沢(あいざわ) 凛(りん)
 職業 自営業 ※小料理屋店主
 年齢 23歳
 身長 155センチ
 体重 46キログラム 
 
 レベル3011

 HP30110/HP30110
 MP30110/MP30110

 体力357(+)
 敏捷363(+)
 腕力354(+)
 魔力379(+)
 幸運 6(+)
 魅力21(+) 

 所有ポイント1712



 色々と強いモンスターを倒したからなのか、とんでもないレベルになってしまっている。
 レベル1000程度で、Sランク冒険者なら相沢のレベルだと大変な扱いになりそうだ。
 まぁ、佐々木には及ばないと思うが……。
 とりあえずステータスだけ強化しておこう。
 何かあったら困るからな。



 ステータス 

 名前 相沢(あいざわ) 凛(りん)
 職業 自営業 ※小料理屋店主
 年齢 23歳
 身長 155センチ
 体重 46キログラム 
 
 レベル3011

 HP30110/HP30110
 MP30110/MP30110

 体力357(+)→785(+)
 敏捷363(+)→791(+)
 腕力354(+)→782(+)
 魔力379(+)→807(+)
 幸運 6(+)
 魅力21(+) 

 所有ポイント0



 おそらく魔法も色々と覚えているはずだが、あとは何とかなるだろう。
 ステータスの設定が終わったところで、半透明のプレートを閉じると相沢が驚いた表情をしたあと、俺を見てくるのが分かった。




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