【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン攻略(15)




「それにしても、良かったです」

 男は、胸を撫でおろしているように見えるが、こちらとしては事情がまったく呑み込めない。
 そもそも22階層なのに、まるで台風か地震の被害でも受けた後のように建築物だったと思われる建物が倒壊している。

「良かったとは?」
「ここでは何ですのでこちらまで――」

 本来なら面倒くさいことには関わるのは嫌なんだが――、流石にピーナッツマンの着ぐるみを着ている以上、拒否の姿勢を取るのはよろしくないか。

「どうしますか?」

 相沢が、今後のことを含めて聞いてくるが――。
 ここで無視して23階層に降りるのは、得策ではないだろう。
 やはり情報は必要。
 そうなると、水上の話を聞くのがベストだろうな。

「困っている人間の頼みを無碍には出来ない」
「そうですよね」

 俺が、日本ダンジョン探索者協会の人間からの話を聞くが当然のように頷いてくる相沢。

「いいのか? 探索を最優先にしなくても」
「はい。だって22階層の様子が明らかにおかしいのですから、冒険者は助け合うのが信条だと夫は言っていましたので……」
「そうか……」

 そう言われると俺としても断る訳にはいかなくなる。
 日本ダンジョン探索者協会の職員である水上のあとを付いていく。
 通されたのは石組みの平屋建ての建物。
 11階層よりは貧相な建物であったが、辛うじて原型を留めている事から、かなり頑丈に作ってあるらしい。
 建物内に通される。
 事務所だったのだろう。
 数台のノートパソコンとデスクに固定の電話機が散見できる。
 ただ――、窓ガラスなどは割れてしまっていて事務所の片隅に寄せられていて――、やはり何かあったというのが分かるが――。

「こちらへどうぞ」

 通されたのは、外からは見えない個室。
 個室と言ってもブースに過ぎないので、聞き耳を立てれば聞こえてしまうくらい。
 ただ職員が、殆ど出払っている影響で聞く人間はいないと思うが――。

「それで、話というのは?」

 椅子に座り、すぐに話の要件を聞くために此方から話題を切り出す。
 
「その前に、念のために身分証明書を……」
「ああ――」

 冒険者カードを差し出すと男は「申し訳ありません」と、身分証を受け取ると確認していく。
 確認が終わったところで「確かに拝見いたしました。申し訳ありません」と、頭を下げてくるが――、着ぐるみを着ている時点で察してほしいものだ。

「――で、俺が来るかも知れないということは……俺がダンジョン内に入ったということを知っていたという認識でいいか?」
「はい。もちろんです」
「そうか……」
「それで、具体的には、どのような話なんだ? 此方としても、あまり長引く用事では困るんだが」
「そうでしたか。これは申し訳ありません。じつは――、地上との交信が出来なくなってしまったのです」
「……」
 
 そういえば俺達のスマートフォンも外部との接続が途中から出来なくなった。
 やはり何か問題でもありそうだな。


  

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