【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン攻略(12)




 休憩階層の11階層を降りる。
 到着階層は12階層。
 ダンジョンの雰囲気は、ほとんど変わらない。
 壁には罅が無数に入り苔が生え蔓が至るところに伸びている。
 まぁ、あまり見ていて気持ちの良い物ではない。

「山岸さん」
「どうかしましたか?」

 12階層に降りてから――、しばらく歩いたところで周りを見渡していた相沢が俺に話しかけてくる。
 その表情は、どこか陰っているように見えるが――。

「良かったんですか? ギルド『戦国無双』の相手に、あんな対応しても……」
「問題ないかと――」

 なるほど、大規模ギルドと問題を起こせばプレイヤーキルされる可能性があると危惧しているのか。
 まぁ、ダンジョン内だと見ている人間はいないからな。

「それと、先ほどの話し方が山岸さんの普段の話し方ですか?」
「――普段というか、使い分けているだけですね」
「それなら、私に対しても普段の言葉で接して頂けますか?」
「……」

 ――さて、どうするべきか。
 あくまでも相沢は、知り合いには届かない相手に過ぎない。
 一応、社会人として言葉も選んで相沢には接してきたが、本人が普段の話し方を希望するのなら俺としても楽ではあるが――。

「分かりました」

 まぁ、相沢が求めてくるのなら応じた方がいいだろう。

「それで戦国無双については、どうしますか?」
「どうするとは?」
「いえ、ですから相手のギルドマスターと交渉して問題事の解決を図るとか色々と――」
「俺は何も悪くない。そもそも相手から喧嘩を売ってきただけだ。そして――、相手の武器が勝手に砕けたのに俺を逆恨みしてきた――、それだけのことだ。だから……」
「だから?」
「ダンジョン内で襲ってきたら返り討ちにする」
「それって……」

 ゴクリと喉を鳴らす相沢。

「1階層から10階層の間に篭ってもらって牛型のモンスターを狩り続けてもらったあと、俺に献上してもらう」
「……あー、殺すのかと思いました」
「そんなことをしても意味がない。あくまでも俺の目的は牛型のモンスターに過ぎない!」
「――そ、それって!?」

 そこまで言ったところで俺の言葉の真意にようやく気が付いたようだ。
 まったく、やれやれだぜ。
 牛をたくさん狩れば、それだけ牛丼のネタが増える。
 つまり、牛野屋に大量に寄付すれば上質な牛丼が全国各地で、都道府県の味で楽しめるということ!
 これこそ、まさしく牛ラーとしての本望だろう。
 あとは無料チケットを365枚もらえたらいいな。

「モンスターが増えすぎてダンジョンから出ないように間引く行為を迷惑ギルドにやらせて更生させるってことですね!」

 ふむ……、どうやら俺の崇高な理念を相沢は理解してくれていないようだ。
 俺は、誰かを――。
 ギルドを更生させようなどと! 
 まったく! 
 ぜんぜん! 
 これっぽっちも! 

 ――考えてはいない!

「ふっ、想像に任せる」
「さすがSSランク冒険者は違いますね。尊敬します……」

 やれやれ、訂正するのもメンドクサイから、そのままにしておくとしよう。
 それにしても12階層も『空飛ぶ酒樽』を相手にするとか辞めてほしいものだ。




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