【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン攻略(11)




「ふむって……」

 呆れた表情で相沢は俺を見てくるが、俺の場合は着ぐるみを着てダンジョン内を探索するから絡まれることはない。
 まぁ、絡まれても、国民のヒーロー? 何それ? うまいの? みたいな感じでボコればいいわけだし。
 別に俺はヒーローになりたい訳でもないから一切躊躇なく殴り続けることすら厭わない。

「まぁ、一応はピーナッツマンということで日本ダンジョン探索者協会のNo1ですから、余程の馬鹿じゃない限り襲っては来ないと思うので大丈夫ですよ」
「それならいいんですけど……」

 そういう言い回しはいいから。
 フラグを立てるような発言は控えてほしい。

 まぁ、どちらにしてもこちらの動向を探られるような行動は控えた方がいいだろうな。
 ――と、なると……、風呂も行かない方がいいか。
 


 翌朝にチェックアウトした俺達は、大勢のギャラリーが居る中でダンジョンに向かう。
 やはりピーナッツマンの着ぐるみは、すごく目立つ。

「ピーナッツマン!」

 何やら声が聞こえた気がする。
 まぁ、気のせいだろう。

「おい! そこの着ぐるみ野郎! 聞こえてんだろ!」

 何か声が聞こえたが、俺と相沢はダンジョンの――、12階層に通じる階段に通じる通路へと進んでいく。

「待てと言っているだろ!」
「山岸さん」
「――ん?」
「金髪のサーファーみたいに肌を焼いている人が追ってきますけど……」

 振り向くと、顔を真っ赤にした身長180センチほどの男が小走りで近寄ってくる。
 その後ろには見覚えのある人がチラホラと。

「無視するな!」
「すまないな。――で、俺に何か用か?」

 まぁ、無視をしてゴタゴタしても仕方ない。
 あくまでも、こちらは相沢に頼まれてダンジョンの探索に来た身だからな。
 余計な敵を作るなど愚の骨頂。
 ここは社会人経験を生かして軽やかに相手を煽てるとしようか。

「お前、強いんだってな!」
「どうだろうな」

 俺の強さは、苦労して得た物ではない。
 そんな強さを誇るのは間違っている。
 だから強いんだろ? と、聞かれても答えには窮する。

「俺と戦え! ピーナッツマン! お前は、日本ダンジョン探索者協会ではNo1の最強のSSランク冒険者なんだろう? お前を倒せば俺がナンバー1だ! だから――」
「だが、断る!」

 どうして、俺がわざわざギャラリーの居る前で戦わないといけないのか。

「ふっ、俺が誰か知らないようだな! 俺の名前は藤岡史郎! ギルド『戦国無双』の幹部の一人!」

 自己紹介しろと一言も言っていないのに、勝手に自己紹介をしたあと背中に括りつけていたであろう、2メートル近い柄を持つ巨大な斧の切っ先を俺に向けてくる。

 こいつは、昨日に日本ダンジョン探索者協会の人間に問題を起こすなと言われたことを忘れているのだろうか。
 それとも鶏なのだろうか? 突っ込みどころがありまくりだ。

「悪いが、俺は『三国無双』というギルドには興味はない」
「三国無双じゃねーよ! 戦国無双だ!」

 やれやれ――。
 どうして、こういう自己中心的な奴を俺が相手しないといけないのか。

「ふっ! SSランク冒険者となるとギルド名を覚えるのすらバカバカしくなるのか? 有名人になると慢心するのはよくないぜ!」
「……」

 その言葉! そっくり! そのまま返してやりたい!

「なんだ? じつは、お前の実力は大したことないとか? 俺と戦うのが怖くて逃げたいとかそんな口か?」
「好きに妄想していろ。付き合いきれん」
「――っ!?」

 俺の言葉に藤岡の表情が真っ赤に染まっていく。
 どんだけこいつは煽り耐性がないんだ?
 そのくせに人に喧嘩を売ってくるのか馬鹿なのか?

「俺と死合え! 俺の誇りは傷つけられた! 冒険者同士のイザコザは戦いでつけるのくらいは知っているだろう!」

 おいおい、日本ダンジョン探索者協会が問題を起こすなと言っている時点で戦いで決着をつけたらダメだろうに。
 そんなローカルルールを持ち出されても困る。

「俺の負けでいい」
「なん……だと……」
「山ぎ……ピーナッツマンさん、いいんですか?」
「皆に言っておくが、手に入れた力は誇示する為に振るう内は、真の冒険者にはなれないということを理解してほしい。藤岡とやら! 貴様も見どころはあるが、自らの力を誇示する為に、狼藉を繰り返すことはヒーローを目指す気なら辞めた方がいいぞ? ダサいからな!」

 俺は、上手く場を取りまとめるために適当に言葉を並べていく。
 まぁ、かなり苦しい内容だが――。

「うおおお! さすがピーナッツマン! 名言出たー!」
「俺達のピーナッツマン!」
「動画にアップなう!」
「さすが! 日本ダンジョン探索者協会公認のSSランク冒険者は違う!」

 次々と賛美の声が上がる。
 その中で――。

「お、俺は! そんな言葉には!」
「ふっ、藤岡とやら――、貴様、この俺と戦う癖に武器が無い状態でどうするつもりだ?」
「――へ?」

 藤岡が呆けた声を上げた。
 それと同時に男が手にしていた斧の金属部分が粉々に砕ける。

「お、俺の武器がああああああ」

 破片を藤岡が必死に搔き集めていくが、そんなことをしても復元は不可能だろう。

「い、一体――、何時の間に……」
「さあな」

 俺は惚ける。
 まあ実際は、男が話している間に俺は指弾を放った。
 そして、その影響が時間差で現れて斧が粉々に砕けただけ。
 幸い、誰も気が付かなかったようだ。

「くそ! 覚えていろよ! ピーナッツマン!」
「やれやれ――」

 俺は肩を竦めながら12階層に続く通路へと向かった。




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