【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン攻略(9)




「山岸さん」
「どうでしたか?」
「はい。何とか部屋を借りることが出来ました」
「それは良かった」

 検索していた画面を一度、閉じる。
 その後は、鳩羽村ホテルと聞こえはいいが、プレハブ小屋が並んでいる建物の一室に足を踏み入れる。
 部屋の中の家具は、折り畳み式のベッドと4脚の椅子のテーブルのみ。
 トイレや風呂などはない。
 
「えっと荷物は、ここに置いて……」

 疲れていたのではないのか? と、疑うほどテキパキとリュックを下ろし装備を外していく相沢。

「山岸さんはお風呂とかどうしますか?」
「風呂?」

 ダンジョン内に風呂があるとか初めてきいた。
 疑問形で返した俺の言葉に相沢が首を傾げると眉を潜める。
 これは、俺がダンジョンのことを何も知らないと気がついたのかも知れないな。
 言い訳を考えておくとするか。

「えっと、山岸さんは、探索中はお風呂に入らないんですか? やっぱり戦闘での緊張を維持したいとか、そういう感じですか? でも、疲れている時はお風呂に入ってリラックスした方がいいですよ? あと、トイレも部屋を出て右手にあるそうです。――あ、山岸さんは、知っていますよね」
「まぁ……な」

 まったく知らなかった。
 あとで調べておくとしよう。
 適当に答えていたら墓穴を掘りそうだし。

「それよりお金などは……」
「山岸さんに迷惑を掛けていますので、私が全額負担します」
「そうですか」

 まぁ、向こうが出してくれるなら甘えておくとしよう。
 それに、ここのルールとか知らないからな。
 出来るだけ任せられる部分はお願いしておいた方がいい。

「それでは行ってきます!」
「ああ――」

 湯浴みの用意をした相沢が部屋から出ていく。
 幸い、プレハブ小屋を重ねた作りになっているホテルもどきは、窓にカーテンなどがあるから外から室内を見ることが出来ない。
 その部分はいい所だ。

「――さて」

 スキル「神眼」を発動。
 周囲を確認するが盗聴器や盗撮などの機材は見受けられない。
 ただ――問題は……。
 
 俺達の借りている部屋は、プレハブ小屋を重ねた3階建ての建物の3階部分。
 その部屋のカーテンを開けて下を見ると何人もの冒険者らしき人物たちが「ピーナッツマンが来ているんですよね!」と、日本ダンジョン探索者協会の人間に詰め寄っているのが見える。
 
 ――そう、俺達が部屋を借りることが決まったあとホテルに近づいたところで、俺が着ている着ぐるみに気が付いた何人もの冒険者が近寄ってきた。
 何とか声を掛けられる前にホテルの一室に入ることが出来たが――。

「これだと部屋から出ることも出来ないな」

 とりあえず正面からは出ることが出来ないがモンスターが出ないという11階層にも興味がある。
 だが――、ピーナッツマンの着ぐるみを着ていると注目されるから身動きは取りにくくなるからな。

「まぁ、とりあえず――」

 俺は着ぐるみを脱いでアイテムボックスの中に仕舞い――、玄関とは反対側の地面までとっかかりがまったくない方の窓を開けて飛び降りる。
 誰にも見られることなく地面に着地したあとは、すぐにホテルから距離を取る。
 
「ふむ……」

 何というか11階層にまでコンビニがあるのは驚いた。
 流石は日本というべきなのか――、それとも日本の企業のインフラを頑張る姿は変態的というべきなのか褒めていいのかよく分からない部分だ。
 ただ従業員は、日本ダンジョン探索者協会に所属している人員が行っているようで全員がレベル130前後はある。
 一応、店の中に入り商品を物色するが地上と比べて冷凍食品が置かれていないというのも特色だろう。
 それ以外はATMもあるしコピー機もある。

「普通に、ここで生活できそうだな……」

 アイスクリームを購入し店を出る。
 ホテルの周囲にある店舗は、主にコンビニとホームセンターの小さい物が幾つか――、それと松阪牛を使った食事処と居酒屋。

「――ん? 日本ダンジョン探索者協会直営モンスター素材買取店……?」

 ダンジョン内は、天井があるからなのだろう。
 素材買取店という名ばかりの店は、まるでバザーのようにテーブルだけ10個ほど並べられていて日本ダンジョン探索者協会の連中が冒険者から素材の買い取りをしていた。

「たしか……、ダンジョンから出た時に日本ダンジョン探索者協会に素材を引き渡すと聞いたが――」

 あまりにも場違いな様子に思わず独り言が出てしまったところで――。

「君は、ここのダンジョンは初めてなのかな?」
「――ん?」

 振り向く。
 そこには、俺も見覚えのある連中が居た。

「……」
「俺達を見て固まってしまったのかな? まぁ、俺達は有名だからな!」

 そう語る30代後半の男。
 レベルは971。
 
「たしか『戦国小町』のギルドだったか?」
「『戦国無双』だ! 相手のギルド名を間違えるなんて君は、失礼にも程があるだろう!」
「そうか。すまない」

 まぁ、スキル「神眼」で所属ギルドは分かっていたが、真面目に答えるのは癪だったので適当に答えたが、それが彼らの自尊心を傷つけてしまったようだ。


 


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