【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
擦れ違い(3)
「――ったく……」
旅館『捧木』を出たあと、鳩羽村の市街地へ向かう坂道を下っていく。
両側は鬱葱とした森が存在しており、時刻も夕方を過ぎていることから通りの街灯だけではとても暗いと思う。
俺は無言のまま、遠くに見える鳩羽村の市街地へと視線を向ける。
常人を遥かに超えるステータスまで強化されている俺の眼(まなこ)は、距離としては1キロ近くあるというのに、通りを歩く人物の顔の表情までハッキリと識別できるし、周囲は暗闇に包まれているというのに真昼のように見える。
正直言って異常だとは思うが、レベル補正から来る身体能力向上だとすると説明はつく。
「――さて、どうするか……」
俺は、鳩羽村の市街地――、商店街を見ならこれからどうするかと考えるが――、特にすることがない。
「とりあえず夕飯だな。そういえば――」
思い至ったのでとりあえず向かう。
そして――、記憶通り小料理屋『幸』の暖簾が掛かっている店が見つかる。
ここの店は、家庭的料理や郷土料理を出してくれるので、俺の中では牛丼の次くらいのランキングに載っている。
――ガラガラ。
暖簾を上げながら戸を横にずらすと、音を立てながら戸が開く。
「いらっしゃい――、あら?」
「どうも――」
俺の姿を見た彼女――、相沢(あいざわ) 凛(りん)さんは一瞬、驚いた表情を見せたが、「山岸さん、いらっしゃい。今日は、どうかしたの?」と、話しかけてくる。
「今日は?」
「ええ、山岸さんは旅館『捧木』に泊まられているとばかり――」
「まぁ、泊まっているというか部屋を用意してもらっているだけなので、とくに深い意味はないです」
何を俺は言っているのか。
それよりも、店の中には誰一人客がいない。
「まだ店を開けたばかりなので」
どうやら、俺の意図を汲んでくれたようで、説明をしてくる相沢。
「そうでしたか」
「はい。それより、山岸さんが来られるということは食事など――、ご自分で作っているんですか?」
「いえ、一応は社員食堂のような所で旅館板前の源さんが食事を用意してくれています」
「そうですか」
少し翳りある表情をする相沢。
「ただ、今日は何も食べていないので――」
「分かりました! 私が腕によりをかけて料理を作らせて頂きますね。――それと……」
相沢が、調理場から出てくると店内を通り店の外に出たかと思うと暖簾を外して中へ入れてしまう
それどころか、行灯屋外看板の電気も切っていく。
「相沢さん?」
「今日は、山岸さんの為に貸し切りです!」
「それは、さすがに……」
俺の為だけに店を貸し切りにしてもらうのは心苦しいし、何より――、そこまでしてもらうのも……。
「気にしないでください。これは私がしたくしてしているだけですから」
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