【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

擦れ違い(2)




 用意しておいたアイテムは全部で3つ。



【バッカスの皮袋】

 殺菌効果を持つエーテルという液体が一日1リットルまで出る。
 一応、アルコールで度数は1度ほどで10mlほど飲めばいい。
効果は、全てのウィルスに関係する病を完治させることが出来る。

【銀花の指輪】

 全ての花粉症をシャットアウトすることができる。
 これにはアレルギーなどの病を完治させることも出来るが、一時間ほど装着していなければならない。

【百合の花の魔力ブローチ】

 装備者の皮膚病を持続的に治癒させる。
 完治するまでに要する時間は24時間。
 
【黄金の果汁】

 体内の全ての病を治すことが出来る。
 これには内臓疾患や心臓病――、脳障害なども全てが含まれるが――、一日で10人分程度の果汁しか皮袋からは抽出できない。



 どれもが使いようによっては莫大な利益を上げることが出来る。
 
「でも……、どうして先輩はアイテムの効果を知っているんですか?」
「何となくだな」

 苦し紛れだが、スキル「神眼」で鑑定しているとは言えない。
 たしかに佐々木は、俺がピーナッツマンだと知っているが全てを教える義理もないからな。

「……はぁ。先輩は、本当に何も話してはくれないんですね」
「誰もが秘密の一つや二つは持っているだろう?」
「そうですけど……」

 ペットボトルに口をつけると佐々木は両手でペットボトルを持ったまま何とも言えない表情を見せてくる。
 その目は、どこか俺を批難しているようにも思える。

「少しロビーに行ってくる」
「あっ! 先輩!」

 スタッフルームから出てロビーに向かう。
 すぐ後ろから、まだ話があるのか佐々木が追ってくるが――、

「どうして、あの女と子供が部屋備え付けの浴衣を着ているんだ?」

 俺が追い返したはずの、皮膚病を患っている女と子供が旅館内を歩いていた。
 どうしているのか? と、思いつつも近づこうとしたところで佐々木が俺の腕を掴んできた。

「先輩」
「どうかしたのか? 俺は、あの母娘を――」
「ごめんなさい。じつは私が、二人を受け入れました」
「どうしてだ? こちらを蔑んできた連中だぞ? それに、あいつらの身分なら日本ダンジョン探索者協会のオークションサイトで皮膚病を治すポーションでも買えばいいだろう?」
「先輩の言う事は分かります。――で、でも! あの人は、頭を下げてきました。だから――」
「……それは一時的な物かも知れないだろう?」

 頭なんて幾らでも下げられる。
 何しろ権力者などは頭だけ下げて責任を取らないからだ。
 そういうゴミ共を相手にするなど、愚かなことに他ならない。
 それに、毅然とした態度を取る事こそ、優良な顧客獲得に繋がる。
 そんな常識と当たり前のことを小さい頃から客相手の商売を見てきた佐々木が知らないわけがないだろうに――。

 俺の言葉に佐々木は頭を振るう。
 
「それでも彼女は、自分の子供のことで頭を下げて謝罪してきました。それに、先輩が悪者になるのは私は……、だから――」
「……分かった。まぁ、ここはお前達、母娘の旅館だからな。部外者の俺が過剰に口を出しても仕方ないだろう」
「せん……ぱい?」

 俺は、アイテムボックスの袋を佐々木に渡したあと、「盗まれないように、この袋の中に展示しているアイテムを入れておけ、少し出かけてくる」と、言い旅館を出た。
 




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