【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

貯湯槽




 ――コンコン。

「はい」
「幸村です。失礼します」

 スタッフルームに入ってきたのは、雑務などを担当していると説明を受けた幸村さん。
 年齢は60歳付近だろうか?
 中背中肉と言った感じで体格はシッカリとしている。

「山岸さん、風呂場の事でお話が――」
「話ですか?」

 椅子から立ち上がる。
 マニュアル作りと改善で思ったより時間が掛かってしまっていたようだ。

「先輩?」

 ノートパソコンで資料作りをしていた佐々木が、椅子に座ったまま俺を見上げてくる。
 俺は佐々木の頭に手を置く。

「薬湯温泉をするからな。その為に、この旅館の温泉設備を見せてもらう事を幸村さんにお願いしていたんだ」
「そうだったんですか? 私も、一緒にいきますね!」
「望は、資料作りを手伝いなさい」

 香苗さんにピシッ! と、言われた佐々木は「はい」と、頷くと椅子に座りなおす。

「それでは、幸村さん」
「はい」

 幸村さんの後を付いていく。
 一度、建物の外に出たあと、裏庭をしばらく歩くと一軒家ほどの建物が見えてくる。
  
「あちらが、設備になります」
「これが――」

 幸村さんが、スライド式の扉に掛かっている錠前を開錠したあと、促されるようにして建物の中に入る。

「これが設備ですか?」

 建物の中には、乳白色の軽トラックなら軽く入ってしまいそうな巨大なタンクが置かれていた。

「はい。これは、貯湯槽と言います」
「貯湯槽? 貯水槽みたいなものですか?」
「そうですね。これは、泉源――、所謂、汲み上げた温泉を一時的に貯めておく物です」
「なるほど……」
 
 ――なら、この貯湯槽の中にミドルポーションの無限精製樽をぶち込んでおけばいいな。

「あとは――」

 その後に、旅館『捧木』で一番広い客間に案内してもらう。
 そこは、いくつかのベッドが――、運動用のマット、歩行練習用の器具などが置かれていて、客間というよりも簡易的リハビリ施設のようになっている。
 遠慮がちに、幸村さんが、「一応、言われた通り地元の業者に頼みましたが、これで大丈夫でしょうか?」と、領収書を差し出してくる。

「問題ありません。それより、よく昨日の今日で出来ましたね」
「以前に、女将が旅館経営に苦慮している時に色々と試行錯誤しておりましたので」
「なるほど、その物を流用したと――」
「はい。設置には業者を頼みましたが……」
「いえ、十分です」

 今回の、旅館『捧木』の目玉は何も薬湯温泉だけではない。
 全力全開で相手を叩き潰すつもりなのだから、貝塚ダンジョンで出たアイテムはフル活用させてもらう。

 俺は、視界内の魔法欄を選ぶ。
 その中にはアイテムボックスの魔法が存在している。
 そして――、アイテムボックスの中には――、



【アイテム名】  
 
 バッカスの皮袋 
  
【効果】   
 
 高濃度のエーテルを混ぜ込んだアルコール
 ウィルスを死滅させることが出来る

【アイテム名】  
 
 銀花の指輪

【効果】   

 装備者は、全ての花粉をシャットアウトすることが出来る。

【アイテム名】  
 
 黄金の果汁
  
【効果】   
 
 体内の全ての病気を治療することが出来る。

【アイテム名】  
 
 極光(きょっこう)の眼鏡(レンズ)
  
【効果】   
 
 発動回数(10/10)
 装備をすることで効果が発動する。
 失明を含む全ての目の病を治療することが可能。



 制限回数のあるアイテムがあるが、効率的に利用するなら――、その有用性は跳ね上がるだろう。
薬湯温泉を超える目玉商品でもある。
 
 あとは、俺がリーサルウェポンでもある牛丼を作って振る舞えば完璧だな!




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