【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

交渉と面接(12)




「なるほど……、簡単に説明をすればモンスターを倒してお金を稼ぐというリアルRPGみたいな感じです」
「ほう……、それは一昔前に流行った鳥とかに乗って地下世界にいって魔王を倒すみたいな……」
「まぁ、そんな感じです。あとダンジョンからは特殊なアイテムが出ます。今回は、旅館の温泉に、その特殊なアイテムを混ぜてポーション風呂を作ろうと考えています」
「――ほう!? そんなの聞いたことがないな」
「ネットでも無いので、おそらくは日本――、いいえ! 世界初の温泉宿になるかと――」
「だが――、それでバスを利用してくれる可能性は……」
「逆に考えるんです。旅館で足湯も作るとします」
「ほう」
「そして、その足湯を利用できる権利を作るとします」
「……まさか……」
「バスの切符を3枚集めたら足湯を利用できる。もしくはポーション……、薬湯温泉を利用できる権利が貰えるとしたら?」
「なるほど……。それなら――! 確実に利用者が増えるというか飽和する!」
「でしょう? これなら雇用も十分できますし黒字化も確定です」
「山岸さん、あんた……、只者ではないな」
「俺はただの一般人です」
「……まぁいいか。それより融資の話だが――」
「はい。とりあえずノンステップバスを購入しましょう」

 俺は事務所内に置いてあったバスのパンフレットを指差す。
 新しいノンステップバスを購入する資金は鳩羽村交通には無かったが、やはり気にはなっていたのだろう。
 製品カタログが置いてあった。
 俺は、その内の一つを広げる。

「それは新車の……、しかも! 一番高いバスのパンフレット……」
「この際、バスを一新する為に新車にしましょう。そして4台購入しましょう! もちろんオプションはフルセット付で!」

 こういう時の初期投資はケチるのはよくない。
 やる時は過剰なまでに行った方が宣伝効果も含めてでかい。

「――だ、だが……価格が……」
「一台2500万円ほどです。4台だと1億ですが、とくに問題ない金額なので即金で出しましょう」
「ど、どこに……、そんなお金が……」
「もちろん、ここに――」

 俺は四次元ポーチを取り出し、中から1億円が入ったジュラルミンケースを3つ取り出す。
 そしてケースを開けるとギッシリと詰まった万札が!

「……あんた、どこかの億万長者か何なのか?」
「何度も言いますが一般人です」
「…………」

 もう諦めた様子で溜息をつく光方。

「分かった。それではバスの方は伝手で手に入れるとして――、山岸さんの一時間に一本の運行については人材が来るまで、すぐには――」
「年収1000万円」
「――え?」
「年収1000万円でバス運転手を雇用しましょう。すぐに!」
「そ、それは……、人件費があまりにも……」
「大丈夫です。その為の3億ですから――」
「……分かった」

 再度、溜息をつきながら頷く光方。
 どうやら、俺の案が通ったようで何よりだ。

「――とりあえず、自分は旅館『捧木』に滞在しているので何かあれば、そちらへ――、あとは携帯電話番号も一応伝えておきます」
「わかった。あとお金に関しては必要な時に連絡をするから、それまでは山岸さんの方で預かっておいてくれ」
「わかりました」
「――それと……」
「まだ何か?」
「私も、もう歳だ。佐々木家本家と正面切って戦うのなら、儂もどうなるか分からん。だから――。山岸さん、あんたに鳩羽村交通の社長をしてもらいたい」
「それは……」
「儂は、村のインフラさえ守れればいい。何かあった時に計画に支障が出るのは避けたい」
「つまり佐々木達を帰したのは……」

 何となくだが察していた。
 ただ、俺の言葉に目を閉じて微笑む光方の表情を見て察した。

「なるほど……」
「君と同じだよ。儂も、望ちゃんの父親とは面識はあったし、村では少ない若者だったから息子のようだと思っていたからな」

 だから、余計な物事からは二人を遠ざけたいと、光方は考えていたわけか。

「――では、社会保険の手続き、税務署への代表者変更届提出、登記の変更と登記簿の発行の方は儂の方でやっておく。これからもよろしく頼む」

 そう語りながら光方は頭を下げてきた。
 
 

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