【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
交渉と面接(2)
スマートフォンを取り出してメールアドレスに表示されている携帯電話の番号を入力する。
トゥルルルと呼び出し音が鳴ったあと――。
「はい」
「メールの方を確認しました」
長年電話業務に携わってきた事もあり、それと今後のビジネスパートナーと言う事もあり、言葉は選んで話す。
「申し訳ありません、要件を書かずに……」
「――いえ。それより、メールに添付されていた電話番号ですが、新しい電話番号ですか?」
「そうなります」
「新しく契約を?」
「――いえ、プライベートの携帯電話になります」
「なるほど……、それでメールの方ですが詳細などが書かれていなかったのですが何か?」
「はい。少し伺いたい事がありまして……」
「伺いたい事とは?」
「はい。旅館関係の仕事という事は伺っていますが、交通費とかの件で――」
「そういうことですか……」
正直、松阪市から鳩羽村までは、かなり距離があるからな。
「佐々木」
「はい?」
「鳩羽村までの交通機関はどうなっているんだ?」
「えっと……、お母さん!」
「どうかしたの?」
顔を上げる香苗さん。
「いまって、ここまでの交通事情ってどうなっているの?」
「そうね……、基本は自家用車かレンタカー……、あとはバスとかかしら? ――でも、バスは3時間に一本だから……」
「バスの本数は昔から変わらないね」
「すぐに増えないから」
「――ということは、電車などは通っていないと言う事か……」
「昔は通っていたのよ? でも、人口減少で採算が取れずに廃線になってしまったの。いまは多少人口が増えたのだけれど……」
「再度、列車を通すまでは――、ということですか」
「そうなるわね」
そうなると、交通の便はいいとは言えないな。
ここは何とかした方がいいか。
「桂木さん」
「はい」
「交通費の手当などについては別途で全額支給をします」
「分かりました」
ホッとした雰囲気が伝わってくる。
まぁ、交通の便が良いかどうかは仕事を決める上で重要なポイントだからな。
「あと、人数は集まっていますか? そういう問い合わせをしてくるという事は何人か興味を示していると言う事でしょうか?」
まったく興味が無いのなら――、そういう交通費など聞いてくる事なんてないだろうし……。
「はい。とりあえず30名ほどは――」
「そうですか。それは良かった」
30人も人を確保できれば、仕事を覚えるまでは大変だと思うが、成長すれば立派な戦力になる。
人手不足だけは、どうにもならないからな。
「あの……」
「何でしょうか?」
「いえ、何でもないです」
何か言いたそうな様子の彼女――、桂木香は「それでは失礼します」と電話を切った。
「先輩」
「――ん? どうした?」
「桂木さんは、何て?」
「通勤交通費を聞いてきただけだな」
「そうですか……、でも30人も受け入れて大丈夫でしょうか……」
「そうだな……。鳩羽村には、宿泊施設は多くはないよな?」
「ダンジョン攻略の為の――、探索者用にいくつか宿は出来ましたけど……、基本的に数か月前から予約が必要ね」
俺の疑問に答えてきたのは佐々木香苗さん。
「なるほど……、そうなると鳩羽村内で宿泊施設を借りて、旅館で働く従業員を泊まらせるのは難しいですね」
「そうね。そうしますと松阪市内で部屋を借りるしか――」
「ふむ……」
やはり、30人もの人間を寝泊まりさせる場所の確保は最優先だな。
一応、夏目総理に頼んで陸上自衛隊施設科の派遣を頼んでいるが――、プレハブ小屋でも良いが建築が終わるまでは日数は掛かる。
だが――、すぐに居住するのは難しい。
「バスも3時間に一本だしな……」
あまりにも交通の便が悪いのは問題だろう。
そうなると――。
「バスの路線を増やすか……」
「え?」
「せんぱい?」
さすが母娘と言ったところか。
きょとんとした表情は愛嬌があって――、とても似ている。
「いや、正式に路線バスを増やすと言う事じゃなくて、従業員用のバスの手配をする」
丁度、俺は千城台交通という人脈があるからな。
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