【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

日本国政府との交渉(1)




 正門から出たあとは、警護をしているスーツ姿の男たちが追ってくる様子はない。
 しばらく道通りに進み、佐々木家の本家が見えなくなった所で、スキル「神眼」を発動。
 周囲にカメラなどが無いことを確認しつつ、森の中へと入ったあとに大木の上へと跳躍し枝の上に立つ。

「――さて……」

 やらないといけない事が幾つかあるからな。
 アイテムボックスからスマートフォンを取り出し電話を掛けると、「もしもし……」と、重厚な声が、電話越しに聞こえてくる。

「山岸だが――」
「ああ、君か。まさか、君の方から連絡を寄こすとは思ってもみなかったが何か用か?」
「実は頼みがあるんだが……」
「200億円は、渡した冒険者カードに入れておいたが?」
「いや、そっちの話じゃない」
「――ん?」
「じつは土地建物の名義変更を頼みたい」
「俺は、不動産屋じゃないぞ?」
「今は正月だ。しかも三が日だから法務局がやっていない」
「たしかにな……、――で? この俺に法務局を何とかしてほしい……、そういうことか?」
「そうなる」
「…………それは、難しいな。他国のトップと違って日本の首相というのは、そこまで力がある物ではない。それに明後日になれば法務局は業務を開始する」
「それだと間に合わない可能性があるから頼んでいる」

 佐々木家の実家が邪魔をしてこないという保障はどこにもない。
 なるべく早い段階で、土地建物の名義変更をしておきたい。

「君への義理は果たしたはずだが? 過ぎたる考えは――」
「ポーションを――、ミドルポーションを提供すると言ってもか?」
「――何!?」

 取り付く島もない夏目が、そこでようやく俺に感心を持った。

「ああ、俺の頼みを聞いてくれるのなら、ミドルポーションを1万個用意しよう。それで手を打たないか?」
「ふむ……、それは嘘ではないな?」
「取引で嘘をつくほど耄碌はしていないし、今後の事を含めると嘘をつくのはデメリットにしかならないだろう?」
「…………いいだろう。それでは、登記簿謄本などはあるのか?」
「あるが……」
「それなら、それを持参すれば対応しよう。場所は、そうだな……、秘密事項を含めると……、首相官邸まで来てもらえば――」
「分かった。今日中に行こう」
 
 本当は、車で移動したかったが――、いまの俺の身体能力なら普通に山岳を駆けて直線で進んだ方が早いからな。

「それと、あともう一つ二つお願いがあるんだが……」
「まだ何かあるのか?」
「――ああ、自衛隊の施設課を貸してほしい」
「ほう、何を狙っている?」
「別に何も狙ってはいない。旅館の整備と建物増設の為にプロフェッショナルの力を借りたい。あと宣伝も含めて――」
「国が民間に関わるのは、余程の事が無い限り難しいというのは分かっているのか?」
「その点は分かっている。だから――、交渉だ。貝塚ダンジョンを攻略した際に手に入れたアイテムの一部を譲渡する」
「なん……だと……!? どのようなアイテムを――」
「それは、首相官邸で見せる」
「…………わ、わかった」

 電話を一端、切ったあと――、佐々木に電話しておく。
 そして、帰りが遅くなることを伝えたあと東京に向かって山道の中を走り始める。


 

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品