【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

信頼の軌跡(10)




「先輩は、私のこと……、どう思っていますか?」
「どうとは?」
「えっと、異性として……」
「何とも思っていないが?」
「――え?」
「――ん?」

 二人して首を傾げる。
 どうやら、俺と佐々木との間に考え方に齟齬があるようだな。
 ここは、きちんと正しておかなければいけないだろう。

「先輩! その! 何とも思っていない! と、言うのは! 異性ではなく彼女として見ているから、すでにその段階は過ぎている! と受け取っていいのですか!?」

 どうして、そんなにポジティブに話を持っていけるのかと考えてしまう。

「佐々木、俺は――」

 途中で俺は口を閉じる。
 現在、佐々木家の本家が松阪牛牛丼を出さない! と、決めた。
 だが! ここで佐々木に八つ当たりというか本当の事を言うのは牛丼に辿りつく道筋を態々、潰す事にならないか?
 なら、ここは――。

「お前を大事な後輩だと思っているぞ」
「……やっぱり先輩は、私のことを女性としては見ていないんですね」
「うっ……」

 たしかにその通りだが――。
 中性的な顔立ちを佐々木は男の頃からしていたが――、やっぱり男なのは変わりないのだ。
 そこに男女の性別が逆転するポーション【ヘルメイアの薬】を使われて身長が20センチ近く縮み、さらに髪の毛が短髪から腰に届くまでの黒髪になったところで、俺の中のイメージは、男の時の佐々木のまま。
 
 ――異性として見るのは無理がある。

「――と、とりあえずだ」

 ここは佐々木の機嫌を取っておいた方がいいだろう。
 松阪牛の牛丼という、スペシャルなフランス料理のフルコースよりも希少な料理を味わう為には多少の融通は利かせるべきだ。
 
「佐々木は、見た目が随分と変わって女らしくなったと思うぞ」

 まぁ、これは嘘ではない。
 それでも、俺にとっては後輩に過ぎないが……。

「……ほんとうですか?」
「本当だとも! その証拠にサインだって強請られていただろう?」
「私は、先輩だけでいいんです! 他の有象無象の男なんて! ど・う・で・も! いいんです! 先輩から見て私はどうなんですか!」

 どうして、そんなに今日に限ってグイグイくるのか……。
 普段なら、どうとも思っていないとハッキリと言えばいいのだが……、いまは色々と俺にも守る物(ぎゅうどん)がある。
 戸惑っていると、扉がノックされた。

 部屋に入ってきたのは安藤。

「佐々木様、お待たせしました」
「むー、せっかくいい所だったのに!」

 ――いや、別に全然いい場面は無かったからな。
 
 俺は思わず心の中だけで突っ込みを入れておく。
 
 佐々木が頬を膨らませながら安藤を見る。
 どうして、そんな顔で睨まれるのか安藤は分かっていない。

「それで現金はどちらに?」
「ここまで持ってきてください」

 冷たい目で支部長を睨みつけるようにして言葉を紡ぐ佐々木。
 それとは対照的に完全に恐縮してしまっている支部長。
 支部長は、渋々と言った様子で部屋から出ていく。
 それからしばらくして、支部長室にはジュラルミンケースが20個置かれた。




「【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く