【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

信頼の軌跡(6)




「はい!」

 佐々木と一緒に、日本ダンジョン探索者協会の建物の中に足を踏み入れる。
 入口は、自動開閉式の自動ドア。
 外からも見た通り、建築様式から1階のフロアまで一般的な企業のフロントと大差はない。
 探索者がいる建物だと聞いていたから、荒くれどもが跋扈しているような場所を考えていたのだが――、実際に中に入るとスーツ姿の女性がカウンターに立っているだけで、他には人の姿は見受けられない。

「何だか拍子抜けだな」
「そうですか?」
「まあな……。アニメなどで見るようなモヒカンに肩パットをつけているような冒険者などの姿も見えないからな」
「先輩、創作の世界と現実の世界は違いますから」
「そういう正論を言うな」

 クスッと笑ってくる佐々木に俺は小さくため息をつきながら――、彼女のあとを付いていくが――。

「何だが受付の女性に見られている気がするな」
「気のせいですよ」
「――いや、ガン見されているぞ」

 しかも俺ではなく佐々木の方が――。

「あの、お金を下ろしたいのですが――」
「――は、はい! に、2階に取り次ぎ部署がございますので、そちらの方のエスカレーターから行くことができますので!」
「ありがとうございます」

 1階カウンターで佐々木を見ていた女性は緊張していたのか、言葉に詰まりながら説明してきた。

「ふむ……」

 2階に続くエスカレーターに乗りながら俺はSランクの冒険者カードを財布から取り出す。

「佐々木」
「はい? これは――」
「お前が、そのカードでお金を下ろしてくれ」
「――それって! 彼女に財布を持たせて食事の支払いをさせるような感じですか?」
「いや――、そんなことはまったくない! さっきのカウンターで受付をしていた女を見ていて何となく察したが、どうやらお前は顔が売れているらしいからな。とりあえず、お前がお金を下ろしておいた方がいいだろう。その方が、好奇な視線に俺が晒されることはないだろうからな」
「せんぱい……、もうすこしオブラートに包んでほしいです」
「オブラートに包んだだろう? オブラートに包まないのなら――、ストレートに言って欲しいなら――、お前を連れてきたのは、何かの役に立つかも知れないからと思っていたからだとしか言わないぞ」
「はぁー」

 佐々木が深くため息をつくと、俺が差し出した冒険者カードを黙って受け取る。
 そして、エスカレーターに乗っていた俺達は2階に到着。

「2階は区役所の受付窓口みたいになっているんだな」

 広いフロアには、多くの市民を待たせるための椅子が何十も並んでいる。
 さらに、奥には受付窓口があり――、窓口のカウンターの後ろには大勢の職員が仕事をしている姿を見ることが出来る。

「そうですね……。一応は、民間企業という体裁は取っていますけど――、幹部や代表者は全員が陸上自衛隊の天下りですから」
「なるほどな」
「はい。銃刀法に引っかかる仕事が探索者であり冒険者ですから――、荒事には実力が必要ということですね」
「まぁ、たしかにな……」

 俺は、スキル「神眼」を使いながら受付窓口の順番待ちをしている人達を見ていく。

「レベル1382か……」
「先輩?」
「――いや、何でもない」

 大抵の探索者のレベルは130から200前後だったが一人だけレベルが飛びぬけている奴がいる。
 意識しないようにして佐々木と一緒に受付窓口に向かう。



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