【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
信頼の軌跡(1)
「――で、でも先輩」
「ん? どうした?」
「そんなお金なんて、どこに……」
競馬で稼いだお金が7億ほどある。
しかも日本国首相の夏目総理から200億円が入っている冒険者カードも受け取っているのだ。
つまり戦争の為の資金は腐るほどある!
「金ならある。問題は労働力がないという点だな。香苗さん」
「はい!」
「現在、この旅館『捧木』に残っている従業員は、香苗さんを含めて3人だけですよね?」
「はい。そうなりますけど……。――でも、無理をしなくていいんですよ? 5億なんて大金を私達の親子の為に――」
何か勘違いしているようだから、ここはハッキリしておいた方がいいだろう。
「香苗さん、これは俺の大事な物(ぎゅうどん)が傷つけられた――、そして! その尊厳を取り戻すための聖戦なんですよ!」
俺は強めの口調で佐々木香苗さんに、しっかりと意思を伝える。
「そこまで娘のことを……。わかりました! 私も娘の母親として出来るだけ協力を惜しみません! こうなったら本家と戦ってでも私の愛した――、あの人が残した旅館を守るために戦ってみせます!」
香苗さんは、握りこぶしを作りながら力説してきた。
いくつか気になるような事を言っているような気がしたが、やる気を損なうのも問題かと思い、そのままにしておく。
「先輩、本当にいいのですか?」
「ああ、問題ない。それよりもだ! まずは作戦会議だ!」
丁度、客もいない事から俺、相原、佐々木親子、板前の源さん、雑務などを主に担当している幸村さんの計6人で話をすることにした。
「まず、俺達に足りないものは労働力、つまり働き手だ」
俺は、旅館『捧木』の図面を広めのテーブルの上に広げながら全員の表情を見る。
源さんと幸村さんは覇気が無いというか殆ど諦めてしまっている感が否めない。
「そうね……。でも、そんなに簡単に旅館で働いてくれる人なんて見つからないわよ? 指導しても身に着くまで、時間がかかるもの」
憂慮すべき点を佐々木香苗さんが指摘してくる。
「分かっています。そこで――、教育係には当てがあります」
「宛てですか?」
佐々木望が不思議そうな表情で俺を見てくる。
まぁ、たしかに俺はコールセンターがメインの仕事ばかりしてきたから、ホテル関係について殆ど知り合いはいない。
――だが!
「これを見てください」
俺は、女将である香苗さんから借りたノートパソコンでインターネット上のWEBページを開く。
そこには人材を募集という項目が書かれている。
「ね、年収1000万円!? 三食賄い付の冬の夏の2回はボーナスあり!? 経験者には、さらに300万円の年収増額!? ――せ、先輩! こ、これは!?」
「見てのとおりだ。さっき、藤堂に電話して作ってもらった。人材というのは高い金を出せば、その年収に合わせた適切な人間が来てくれるものだ」
まぁ、さっき藤堂に電話した時に、「なんで、佐々木さんと一緒に帰郷しているんですか! 私達もすぐに行きますから!」と何か知らないが怒っていたが、まぁ――、そのへんは追々説明すればいいだろう。
「――さて、次は教育係りだが……、その辺は千城台の老人会の人に頼むことにした」
「「「「「――え!?」」」」」
全員の声がハモる。
たしかに何も知らなければ、そういう答えが返ってくるのは必然だろうな。
――だが、以前に千城台の町内会に参加した時にスキル「神眼」で、何となく町内会の老人の方々をみていたのだ。
そして、その時に役職に、元・ホテルマンや元・ホステスや元・旅館経験者などが存在したいたのを俺は見逃さなかった。
そして、神原町内長に助力を求めたところ二つ返事で「杵柄さんを助けてくれたんだから、今度は儂らが力を貸してやる」と助力を得ることが出来た。
――そして……。
「すごいです。カウンターがすごい勢いで回っています。どうして、こんなに……」
「クリスタルグループの社長代理の桂木(かつらぎ)香(かおり)が登録している派遣に話を通してくれているからだな」
「――え? それって……。でも営業停止中では?」
「営業停止はしているが、別に斡旋する訳じゃないからな。こういう情報がありましたよとメールを送るだけでいいわけだし。それに、営業停止して一か月も経過していない。つまり仕事を振れば――、条件さえ良ければ来てくれる可能性が高いということだ」
まぁ、本当のところは病院の医師である轟(とどろき)が、杵柄さんの治療費を払ったこと、そして手術の為にポーションを寄付したことを俺だとバラしたことにあるんだがな……。
まったく面倒なことだ。
派遣会社クリスタルグループが立ち直るまでの運転資金まで俺が出すことになるとはな。
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