【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

帰郷(2)




「――え? ……だ、だって! お母さん手紙で年始年末は忙しかったから従業員を休ませるから手伝いの手紙を送ったよね?」
「そんな手紙送っていないわよ? そもそも、年始年末の手伝いは貴方を都会に行かせてからは戻ってきたらダメって言っていたわよね?」
「……え、それじゃ――、この手紙は……」

 佐々木がコートから取り出した手紙。
 それを香苗さんは目を通していくが――。

「これは私の字に似せてあるけど……、私の字ではないわ」

 おいおい、なんかキナ臭い事になってきたんだが――、大丈夫か?

「すいません、その手紙を見せてもらえますか?」
「――え? ええっと……、貴方は――、ずいぶんと痩せているけど山岸直人さん?」

 佐々木香苗さんが首を傾げながら疑問形で問いかけてくる。
 もちろん俺は頷き返す。

「どうぞ」
「借ります」

 受け取った手紙をスキル「神眼」で確認するが、ログには手紙としか表示されない。

「先輩?」
「いや――、何でもない」

 スキル「神眼」で犯人が特定できればいいと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
 そして――、さらに問題がある。

「佐々木、俺は気になった事があるんだが……」
「なんですか?」
「例の約束――、あれは大丈夫なのか?」
「例の約束ですか? 先輩が私を守ってくれるって約束の?」
「違う。その前だ、その前!」
「えっと……」

 佐々木は唇に人差し指を当てながらコテンと首を横に倒して考えて込んでしまう。
 
「山岸さん、娘と何か約束でもされたのですか?」
「――いえ。特に――」
「もしかして! 娘をよろしくお願いしますと以前にお願いしたことを……」
「まぁ。そんな感じです」

 俺は曖昧に答えておく。
 とりあえず――。

「佐々木。例の特産物の話……」

 俺は小声で佐々木に伝える。

「――あ……。お母さん、そういえば松阪牛を使った牛丼の話はどうなったの?」
「松阪牛……、牛丼……」

 しばらく考えこんでいたところで両掌をパンと叩くと。

「佐々木家当主が牛丼は特産物としては相応しくないって中止になったのよ」
「…………」

 なん……だと……。
 牛丼が特産物としては相応しくないだと?
 
「佐々木」
「――先輩、どうかしましたか?」
「ここは危険だ、さっさと帰るぞ」
「手紙の件ですか?」

 俺はとりあえず頷いておく。
 せっかく、こんな田舎までハイヤーを使ってまで来たというのに牛丼が食べられないとかやる気が無くなった。
 さっさと帰って、さっさと牛野屋で牛丼を食べたい。
 というか、俺とか最近は牛丼を食べていない。
 正確には、33時間21分14秒32くらい牛丼を食べていない。
 ここれは由々しき事態だ!
 
「山岸様」

 相原が、どうすればいいのか? と、言う表情で俺に今後の対応を望んでくる。
 どうすればいいのか? と言われても俺は――、もう帰る気ありありなんだが……。

「お久しぶりですね」

 考え込んでいたところで、俺達とは別に一人の男が、あとからロビーに入ってくる。
 年齢としては50歳前後だろうか?

「――ッ!?」

 何とも言えない表情をした佐々木が咄嗟に俺の後ろに隠れる。

「おやおや、これはずいぶんと可愛らしくなられて――、これでは御当主もお嘆きになられますねえ」

 目を細めて威圧的に佐々木に向けて言葉を発する男。
 佐々木は体を震わせているだけで一言もしゃべらない。
 スキル「神眼」で確認。



 名前 萬(よろず) 勘吉(かんきち)
 職業 佐々木家執事
 年齢 51歳
 身長 171センチ
 体重 69キログラム
 
 レベル 1

 HP10/HP10
 MP10/MP10

 体力15(+)
 敏捷13(+)
 腕力13(+)
 魔力 0(+)
 幸運 4(+)
 魅力 4(+) 

 所有ポイント0



 なるほど――。
 つまり、こいつは俺の牛丼を――、楽しみにして松阪市まで来た俺の牛丼を特産物に相応しくないと無くした当主の手先だと言う事か。

「おい」
「はて? あなた様は?」
「俺の名前は、山岸直人だ」
「ほう。貴方のことは当主より伺っております。なんでも、有名人だとか――」
「何?」
「ぜひ当主が、山岸直人様を招待したいと申しております。一度、佐々木家本家までお越し頂けませんでしょうか?」
「…………行ったらダメ」

 体を震わせている佐々木が、俺にしか聞こえないほど小さな声で語り掛けてくる。
 
「考えておこう」
「そうですか。それでは色よい返事を期待しております。――それと、香苗さん。例のお話、早い内にお答えを頂けますか?」
「分かっています」
「それでは、失礼させて頂きます」

 頭を下げたあと、男はロビーから出ていく。

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