【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
想いと思い(4)
「……え?」
「何を不思議そうにしているか分からないが、お前は旅館の仕事は好きそうだけど、それ以外の田舎の話については言い淀む事が多いだろう? つまり、旅館以外の事で何かしら抱えているんじゃないのか?」
今までの佐々木の様子を見ていて思っていたことを口にする。
本来であるなら、他人の事にあまり口を出すことはしないが、今回は特別なA5ランクの松阪牛を使った牛丼が掛かっているのだ。
――もし、食べられなくなったら!
俺が、此処まで態々! 来た! 意味が! 無くなってしまう。
それだけは避けなければならない。
つまり、ある程度までなら俺も佐々木が抱えている問題を妥協しつつ解決してやるものやぶさかではないと! 言う事だ。
「……先輩は何でも分かってしまうんですね」
「ふっ、お前は俺を何だと思っている。こう見えてもコールセンター歴10年を超える大ベテランだぞ? コールセンターで勤めている人間は、エンドユーザーの機微を察して対応する必要がある。つまり、俺は鋭敏な感覚の持ち主とも言える」
「……え、鋭敏?」
どうして、そこで疑問を呈してくるのか気になる所であるが、俺は人の感情の読み解く事に関しては中々な物だと自負している。
「――で、お前が何も言わないって事は、俺が推論した内容は強ち間違いではない! と言う事でいいか?」
「…………」
「無言は肯定として受け取るぞ?」
無言のまま佐々木は俯く。
まったく面倒だな。
とりあえず考えられることは幾つかあるが――、一番可能性として高いのが旅館の経営が苦しいと言ったところだろう。
バブルが崩壊したあと、少子高齢化で国内の旅館やホテルは次々と潰れたからな。
そのあとは、時の政権が日本を観光立国として海外に紹介した結果、外国人旅行者を大幅に増えたが……、それに比例するかのように犯罪発生率は増大。
そしてダンジョンが発生し世界各国は旅行が出来るほど余裕がなくなり日本各地の外国人旅行者を受け入れていたホテルや旅館は倒産ラッシュのコンボだとニュースで見た事がある。
「なるほど……」
ここまで判断材料が整えば佐々木も俺に安易に自分自身が置かれた立場を説明するわけにはいかないだろう。
つまり旅館経営が苦しくて、良い調理法や料理を見ても、それを実行に移す資金がないと――、そういうことか……。
「佐々木」
俺は佐々木の肩を掴む。
もし、このまま佐々木の実家である旅館経営が苦しくなったら松阪牛を使った牛丼が食べられなくなってしまう可能性がある。
――それだけは阻止しなければならない!
「お前が悩んでいる事を俺は知っている」
「……え?」
俺の言葉にようやく顔を上げてくる佐々木。
まったく助けが欲しいなら、さっさと言えばいいものを――。
――というか、ダンジョンを攻略してリン鉱石が手に入るダンジョンを手に入れたんだから、それを国に買わせれば良かったものを。
幸い、いまの俺は207億6千万円ものお金を持っている。
数億あれば旅館の運営を立て直すことなぞ造作の無い事だろう。
「お前が話せないということは分かる」
何せ、人からお金を借りるというのはハードルが高いからな。
「だが安心してくれ。俺が、お前が抱えている問題を全部片づけてやるからな」
「――で、でも……。絶対に迷惑が……」
「気にするな」
どうせ、夏目総理から貰った金だからな。
降って湧いたお金――、使い道は決まっていない。
「俺を誰だと思っている? ピーナッツマンだぞ? あとは、俺に任せておけ!」
「山岸先輩……」
佐々木がぽろぽろと涙を零して抱き着いてくる。
やはり、旅館の経営というのは厳しいのかもしれないな。
しばらく佐々木の頭を撫でて落ち着かせたあと、車に乗り相原の運転で鳩羽村へと向かった。
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