【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
想いと思い(3)
「そ、そんな……」
「まさか手持ちがないとか?」
コクリと頷くと佐々木が俯く。
「お前、一応は陸上自衛隊でもトップだったんだろ? 給料とかは貰ってないのか?」
「貰う前に辞退しましたので……」
「そ、そうか……。ダンジョン攻略の報酬とかは?」
「日本ダンジョン探索者協会所属と陸上自衛隊から除隊する為に、貝塚ダンジョンは国に提供しました……」
――ん? ということは……。
「お前、無職で実はお金をあまり持っていないのか?」
「はい……」
小さく答えてくる佐々木に俺は思わず額に手を当ててしまう。
まさか、一生暮らせるほどのお金を国に寄付するなんて誰が予想できるだろうか。
「お前、どうして――」
「だって……、山岸先輩は自衛隊とか国とか嫌いだって……」
つまり、俺の為に身分を捨ててニートになったと……。
俺に好かれる為に、そこまでするなんて狂気じみた物を感じるが――。
「分かった。俺が払ってやる」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
お金が無い。
その発端に、俺が少しでも関わっているのなら払わないと俺の目覚めが悪い。
「すいません。全員の分を再計算してください。自分が全部払いますので――」
「畏まりました。少々お待ちください」
再計算された金額を提示されたところで万札の束を上着のポケットの内側から取り出しフロントに渡す。
「山岸様、ありがとうございます」
「いえいえ、相原さんや千城台交通の方々には何時もお世話になっていますので」
この言葉は本当だ。
俺が直接的に壊した訳ではないが特注のリムジンは廃車になり、クラウンに至っては原型すら留めずに廃車になった。
従業員20名程度の小さなタクシー会社にとっては一時的とは言え大きな損失だろう。
早めに廃車した車のお金と、迷惑料金くらいは払っておいた方がいいな。
「山岸先輩、ありがとうございます」
「気にするな」
まぁ、佐々木も俺に好かれようとして行動した結果ニートになったのだろうからな。
無理に責めるというのも男らしくないだろ――と! 自分に言い聞かせる。
支払いが済んだあとは、車に乗り鳩羽村へと向かう。
車は国道166号線を南下していき途中で松阪青山線へと乗り換えたあと北上する。
「どうかしたのか?」
車に乗ったあと佐々木が静かなのが気になる。
「えっと……、私……」
「――ん?」
「相原さん、どこか空き地に車を止めてもらえますか?」
「わかりました」
静かに車は路側帯に停車し、俺は佐々木を連れて車の外へと出るが――、どこか表情は暗いように思える。
「車にでも酔ったのか?」
佐々木は無言のまま――。
このままでは埒が明かないな。
スキル「神眼」で佐々木のステータスを確認する。
ステータス
名前 佐々木(ささき) 望(のぞみ)
職業 無職 ※日本ダンジョン探索協会嘱託
年齢 21歳
身長 152センチ
体重 45キログラム
レベル8800
HP88000/HP88000
MP88000/MP88000
体力12(+)
敏捷23(+)
腕力10(+)
魔力 0(+)
幸運 4(+)
魅力52(+)
所有ポイント 0
ステータスを見るだけでは特に異常は見当たらないが……。
佐々木の様子から見るに何かしら問題があるのは確かだ。
だが、スキル「神眼」では全てを見通す事はできない。
ただ、一つだけ引っかかっていることがあった。
「佐々木――。……お前、もしかして実家には本当は帰りたくないんじゃないのか?」
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