【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(11)




 山吹が興奮した面持ちで話してくるが、俺は別に正義なぞどうでもいい。
 ただ、目の前にいる誰かを――。
 苦境に立たされた誰かを救えるのなら……、記憶の中にある地獄を……、苦しみを繰り返すような事にならないのなら、俺は……。

「山吹、お前が正義にどういう拘りをもっているのかは知らない。それに俺がピーナッツマンだと言う事を知っていてもいい。だがな――、誰もが見返りを欲しさに窮地に陥っている誰かを救うと考えているのなら、それは間違いだと思え」
「つまり、貴方は見返りを求めずに人助けをしているというのか?」

 俺の返答に何やら得心言ったのか山吹は額に手を当てながら笑い始める。

「なるほど……、山岸さん。貴方が言う事が全部本当なら、たしかに貴方は正義の味方だ。見返りを求めない人助け。本当にすばらしい」

 山吹は、笑いながら俺へと話しかけてくるが――、その様子はどこか狂気染みているようにも見えてしまう。

「納得してもらえたか?」
「ええ、十分です。今日のところは、このまま牢屋から出しましょう。松阪市まで来て牢屋の中ではアレですからね」
「見返りは?」
「必要ありませんよ。私も、いまの警察機構には色々と問題点を多く見ていますからね。出来れば監視の為に貴方のお力を借りたかったのですが、いまはよしとしましょう」
「そうか」

 どうやら牢屋から出られるようで一安心だな。

「ところで、山吹――、お前がこんなところまで来た理由は……」
「もちろん正義の味方でもあるピーナッツマンこと山岸直人さんに会いにきたんですよ。見返りを求めない英雄(ヒーロー)。それこそ、正義の在り方! 腐った警察機構のあるべき姿ですからね!」
「正義か」
「そうです! 正義というのは尊いモノであり、絶対的な正義こそが人の幸福のあるべき姿であり秩序ですから! ところで山岸さん、お願いがあるのですがいいでしょうか?」
「なんだ?」
「ピーナッツマンを、警察のマスコットとして採用したいのですが」
「ふむ」

 別に、ピーナッツマンは誰の物でもない。
 まぁ、そもそも日本ダンジョン探索者協会に所属している時点で政府の犬でもあるわけだが……。
 どちらか一方に偏っているのも良くないな。
 だが、警察とは色々といざこざがあったことだが……。

「別に構わない。ただ、無暗に俺に干渉をしてくるな。それと俺の正体については――」
「分かっています! もちろん! 正体不明の正義の戦士ピーナッツマン! その不確かさこそ正義の味方に相応しいですから」
「そ、そうか……」
「ああ、そうでした。山岸さん、何かあればこちらまで連絡を頂ければお力になりますので! あと、サインもらえますか? 息子がピーナッツマンのサインが欲しいと――」

 山吹がスーツの上着からサイン色紙を出すと共にマジックを差し出してくる。

「はぁ……」

 これでいいのか?
 ピーナッツマン参上! と落花生のマークの背景に書き込んでやったが……。

「おお! これは良い物ですね。それでは、山岸さん! 外までエスコートしますよ」
「自分で歩けるからいい」

 まったく、面倒な事になったな。
 それにしても警察関係者にまでピーナッツマンの正体がバレているとか、日本の個人情報の扱いはどうなっているのか突っ込みを入れたいところだ。



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