【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

陰謀渦巻く(1)




 答えの出ない禅問答を繰り返しつつも、お腹は何時だって減る。

「もう、五時か……」

 時計と外の――、薄暗い様子を見ながら俺は溜息をつく。
 俺はテーブルの上に重なっている牛野屋の弁当である牛丼並盛の数十個の空になった器を見ながら再度、溜息をつく。

 人間というのは、過剰なストレスや心労に直面した時に、お酒を飲んだり物を食べたり不貞寝する事が多いらしい。
 つまり俺の場合は牛丼を食べることで精神的安定を計っていると言っていいだろう。 

「とりあえず牛丼でも食べておくとするか」

 視界内に表示されている魔法のアイコンから、アイテムボックスを選びクリックして起動する。



 アイテムボックス

 流水の革袋 22
 バッカスの皮袋 4
 百合の花の魔力ブローチ 7
 四次元な赤薔薇のポーチ 3
 銀花の指輪 14
 万能中央演算処理装置 2
 四次元手提げ袋 16
 逆針(ぎゃくしん)の腕時計 5
 黄金の果汁 3
 極光の眼鏡 2
 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(頭)  2
 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(右腕) 2
 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(左腕) 2
 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(右足) 2
 封印されしピーナッツマンの着ぐるみ(左足) 2
 牛野屋の牛丼  5
 ヌカリスエット 101



「なん……だと……!?」

 牛丼の残りがあと、5個しかないだと!?
 つまり――、牛丼がピンチだということだ。
 それにしても、300個近くあった牛丼が残り5個になるなんて……、一体! どういうことだ!
 俺は、そんなに食ってないぞ?
 どちらしても、立ち止まっていては牛丼は手に入らない。
 まずは都賀駅前の牛野屋に行こう……。

「あ……」

 そういえばモノレールが使えなかった。
 仕方ないな。
 富田さんに電話するとするか。

「はい。千城台交通です」
「山岸直人ですが、大至急ハイヤーの用意をお願いできますか?」
「山岸様ですね。車の手配を致します。どちらまで?」
「メゾン杵柄までお願いします」
「畏まりました」

 とりあえず、これで足の確保は出来たな。
 ――さて、まずは牛丼を手に入れてから難しいことを考えるとしようか。

 服に着替えて部屋を出る。
 そして階段を降りようとしたところで白いコートに身を包んだ佐々木とバッタリと会う。

「せ、せんぱい? そんなに急いでどうかしたんですか?」
「どうもしない。それよりも、お前こそ何かあったのか? コートなんて着て――、藤堂や江原に挨拶に行くって感じじゃないよな?」

「はい。じつは年始年末は実家の宿の手伝いをするのが恒例で――」
「――ん? もう年始年末は終わっているぞ?」

 1月3日だからな。

「はい。色々と込み入った事がありましたから――、でも実家の方も年始を終えて疲れている方も出てきていると思うので少し手伝いに行こうかと――」
「大丈夫なのか? お前を男にした身勝手な本家の人間も居るんだろう?」
「はい。私なら大丈夫です。いまの私なら熊でも瞬殺できますから。――でも……、先輩も一緒に来てくれると安心できます……」
「お前は、熊を瞬殺できるのに俺が居ないと安心できないのか?」

 思わず突っ込みを入れてしまうな。
 どうしても、佐々木相手だと――。

「つまりだ。お前は、田舎に一時的に帰省するから、その挨拶の為に階段を上がっていたというわけか」
「はい」
「そうか。がんばれよ」

 階段を下りていく。
 そして、佐々木の横を通り過ぎるところで腕を掴まれた。
 
「せ、せんぱい……、一緒に田舎に行きませんか? お母さんも、先輩に会いたがっていますし……」
「どうして、俺がお前と一緒にいかないといけないんだ?」

 ――と、いうかコイツの戦闘力なら危険な事になることはあり得ないと思うんだが――。
 それに、俺には牛丼を購入しに行くという大義名分がある。
 そしてさらに言えばハイヤーも手配済みだ。

「あ、あの! うちの田舎では最近! 特産物を売りに出していて……」
「特産物?」

 まぁ、俺が特産物ごときで――。
マイ! ソウルフードたる牛丼を買いにいくのを止められるはずがない。

「悪いな。俺は、そういう特産物という――、さも特別的な奇を狙った物が大嫌いでな――」
「そ、そうですか……、ごめんなさい」

 まぁ、佐々木には悪いが――、俺は大きな問題を抱えているのだ。
 そのことに対して気持ち的にケリをつけない限り勧めない気がする。

 ――諸事にかまけている余裕などないのだ。

 俺は、そのまま佐々木の腕を振りほどき――、階段を降りようと右足を階下に向けて伸ばそうとしたところで「限定A5ランクの松坂牛の牛丼を特産物にしたけど……、やっぱり先輩は、そんなものじゃ心動かされないよね……」と、言う声が後ろから聞こえてきた。

 俺は、伸ばしかけていた足を元の足場に戻す。

「佐々木――」
「どうかしたんですか?」
「よくよく考えたんだが……」
「はい」
「お前は、俺の大事な後輩だ」
「はい」
「お前が苦しい思いをした場所に、一人帰らすのは俺も本位ではない。それに、俺にも責任は少しはあるからな。一緒に帰省してやってもいい」
「――え? ――え? ほ、本当ですか? ……で、でも! 先輩はさっき……、私と一緒に帰るのは嫌だって――、それに特産物をひけらかすのも良くないって……」
「佐々木」

 俺は佐々木の後ろにある壁に手をつく。
 所謂、壁ドン体制。
 もちろん、壁と俺の間には佐々木が居る。

「は、はい」
「たしか言った。それは認めないといけない事実だ。だがな! それはお前を試していたに過ぎない!」
「どういうことですか?」
「つまりだな……」

 やはいな、ここで松坂牛の牛丼が食べたいから一緒に着いていくなどと言ったら「特別的な奇を狙った物が大嫌いでな!」と恰好よく言った俺の言葉を否定する事になってしまう。
 それは格好悪い。

 ――なら!

「お前の母親に挨拶しにいくのも悪くはないと思ってな」
「――え? それって……」

 呆けていた佐々木の表情がボンッ! と言う音と共に真っ赤になる。
 
「山岸様!」

 どうやら、佐々木と話している間に思ったより時間が経過したのかクラウンが到着した。
 運転手は、どうやら相原のようだ。

「とりあえず、足の確保は出来ているから二人に出かける挨拶でもしてくればいいんじゃないのか?」
「はい!」

 佐々木が階段を上がっていくのを見送ったあと、階段を下りる。

「相原さん、お久しぶりです。富田さんは?」
「社長は、壊れた車の見積もりで忙しいです」
「そうですか」
「今日は、都賀駅までと伺っていますが――」
「いえ、ちょっと遠出をお願いできますか?」
「どちらまで?」
「たぶん三重県あたりまでだと思います」

 相原は、すぐに会社に電話を入れたようだが――。

「三重県まで送り迎えをするようにと社長から――」
「そうですか。それでは、よろしくお願いします」

 
 
 

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