【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

肯定と否定(1)




 部屋から出る。
 そして階段を下りて階下の佐々木の部屋前に辿りつきドアをノックしたあと、声を掛ける。

「佐々木いるか?」

 しばらく待つが反応がない。
 再度、ドアをノックしようとしたところで「先輩、少し待っていてもらえますか?」と、反響した声が聞こえてくる。
 それで、佐々木がお風呂に入っていることに気が付く。
 
 ――待つこと5分程で佐々木の部屋のドアが開くと、寝間着姿の佐々木が顔を出した。

「山岸先輩? こんな遅くに……、どうかしたんですか?」
「いや、ちょっとな……、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい。どうぞ――」

 佐々木の部屋に入ると、荷物の移動はすでに済んでおり部屋の中も綺麗に片付けられている。

「先輩、そこに座って待っていてもらえますか?」
「分かった」

 部屋の中央を陣取っているコタツに足を入れると、しばらくしてドライヤーを使っている音が聞こえてくる。

「そういえば……、風呂から出てきたばかりで髪の毛が濡れていたな」

 佐々木の容姿は、俺と佐々木が初めて出会った時から、まったく違っている。

「まぁ、性別自体変わったからな……」

 男女の性別が変わった時点で見た目どころか体の作り事態異なるわけで、容姿が違うなど当たり前のこと。

「それにしても長いな……」

 男ならドライヤーなぞ3分以内で終わると言うのに、いまだにドライヤーの音が聞こえてくる。
 そういえば、佐々木も以前は俺と同じ短髪だった。
 それが――、いまは背中に届くまで髪が伸びている。

「性転換のアイテムはすごいものだな」

 佐々木にとってはトラウマ以外の何物でもないと思うが、ダンジョンから出たアイテムについて少しは考えさせられる。

「それにしてもダンジョンか……」

 改めて考えてみるとすごいものだよな。
 非現実的にも程がある。
 
「――だが……」

 もっと、非現実的なのは俺だ。
 ニュースでは、俺は死んでいる事になっている。
 それでも、こうして生きて存在していることは……、俺の記憶とニュース記事に整合性が付かないことに関係があるのかもしれないな。

「先輩、お待たせしました」

 彼女――、佐々木が髪の毛を背中に流したまま部屋に入ってくる。
 今の佐々木は、どこから見ても女性として見られるだろう。
 それに寝巻も、薄い桃色でどこか女性らしさを強調しているように見える。

「どうかしましたか?」

 佐々木は、俺に問いかけながら座りながらコタツに足を入れたあと、俺に湯呑を差し出してきた。

「ホットココアです。体が温まります」
「そうか」

 お互いに、ホットココアを飲む。
 しばらく静かに時が流れる。
 湯呑をテーブルの上に置いた佐々木が俺へと視線を向けると。

「――それで……、山岸先輩――」
「ん?」
「こんな時間に、どうかしたんですか?」
「じつはな……」

 何て聞けばいいのか――。
 狂乱の神霊樹から何か聞いていないのか? と問いただせばいいのか?
 それとも神棟木(かみむなぎ)について、知っていることはないのか? と聞けばいいのか?

 ――それとも……。

「山岸先輩。私が契約していた狂乱の神霊樹が消えたことについて責任を感じているのなら気にしなくていいです。先輩が、あれほど強いなんて知りませんでしたし……、そもそも、あれは私の一瞬の判断ミスから起きた出来事ですから」

 聞きたいことはそういう事ではない。
 俺は聞きたいことは――。

「なあ、佐々木――」
「はい」
「お前は、何のために上落ち村に居たんだ? それと、どうして夜刀神と戦闘をしていた?」



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