【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(32)




 先に食事を終えたという親父の客人を連れて村の中を案内する。
 鏡花は、朝に俺の部屋に来た佐々木という女性と一緒に家にいるようだ。

「あの……、山岸さん」
「何でしょうか?」

 神堕神社を見たいと言ってきたのは、藤堂(とうどう) 茜(あかね)と言う女性。
 物静かな印象を受ける美しいお姉さん系な女性。
 
「山岸さんは、千葉で暮らしているという事ですが――」
「そうですが……」

 親父か? それとも妹の鏡花が話したのか分からないが、あまり俺の事を言わないでもらいたいものだ。
 話している間にも神社へと通じる階段前に到着する。

「この上が神堕神社になります」
「はい」

 女性が頷く。
 俺は先に階段を昇り始める。
 
「あれは何でしょうか?」

 振り返ると女性が、神社とは反対側の斜面に建設中の太陽光パネル発電施設を指さしている。

「ああ、あれは西貝当夜議員が、過疎化が進んでいるのは村に仕事が無いからだと言って建設しているものですね」
「西貝当夜? 県会議員だった?」
「県会議員? 市長だったはずですが……」
「――そ、そうでした」

 彼女は、すぐに訂正してきた。
 たしかに地方議員――、とくに市長程度では名前すら一般の人間は知らないだろう。
 まして役職まで正確に知っていたら驚くほどだ。

「あんな斜面に、太陽光パネルを設置して大丈夫なのでしょうか?」
「西貝市長や、東亜ソーラー開発株式会社が説明会を開いたときには、施工上問題ないと言っていました。――ですが……、うちの親父は反対していましたけどね」
「反対ですか?」

 どこの言葉に琴線が触れたか分からないが、興味ありげな表情で問いかけてくる。

「親父が言うのには、西方の山には霊的に重要な場所らしく、手を触れてはいけないと――」
「なるほど……」

 神妙な表情になり彼女は頷く。

「まあ、親父の言う事は古臭いので話半分で聞いておいた方がいいですよ?」
「そうですか?」
「ええ」

 俺は頷く。

「今は、科学全般の時代です。そのうち一人一台は携帯電話を持つのが当たり前になります。それに、持ち運びが出来るノートパソコンも出てきています。そんな時代に、霊的とか神様とか、そんな事を言っていたら村の発展は出来なくなりますよ」
「…………山岸さんは、太陽光発電施設には賛成なのですか?」
「もちろんです。雇用を作り出す事は経済を発展させることに繋がりますからね」
「でも、もしですよ?」
「何でしょうか?」
「太陽光発電施設を作っている斜面の土壌の補強が不十分で崖崩れが起きたら村が無くなってしまうのではないのですか?」
「村が無くなるって……」

 とんでもなく失礼な事をいう女だな。
 そもそも太陽光発電施設の建設は、視察にきた西貝議員に村を発展させるためだと何度も説明を受けた俺や村の若い連中が承諾して着工したものだ。
 それを村が無くなるなど――、言っていい事と悪いことの区別もつかないのか。

「何度も言いますが、これは何のとりえもない村を経済的に発展させるために伊東市の市長と一緒になり推し進めているプロジェクトです」
「――え?」

 藤堂さんが驚いた表情で俺を見てくる。

「それって……、山岸さんも加担しているのですか?」

 そして、震える声で俺に問いかけてくる。
 何を、そんなに驚いているのか。

「加担しているも何も、太陽光発電施設の建設の推進派のリーダーは俺ですよ?」

 俺の答えに藤堂さんは、目を大きく見開くと口元を両手で覆った。




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