【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(29)第三者視点




「――と、いうことで……、皆さんの対応は私、山岸鏡花がさせていただくことになりました」

 兄である山岸直人から、村に来訪した4人の対応を任されたことを鏡花は、居間で待っていた佐々木・江原・藤堂・富田へと告げる。

「そんな!? 先輩とせっかく会えたのに……」
「佐々木さんって言いましたっけ?」
「そうですけど……」
「お兄ちゃんを先輩って呼ぶのやめてもらえますか? すごく親しみのあるような言い方は気に入らないです」
「貴女に文句を言われる云われも、命令される云われもありませんけど?」
「…………むかつく……、この女――」

 鏡花が苛立つ雰囲気を隠さずに佐々木を睨みつける。

「べつに、貴女に好まれたいとか思いませんから!」
「――!?」

 大きく目を見開く鏡花。
 
「貴女は、お兄ちゃんの何なのですか!」
「先輩には、大事な人って言われました!」
「――だ、大事な人……。私だって! そんなことを言われた覚えがないのに……」

 佐々木の言葉に、ダメージを受ける鏡花。
 さらに――、藤堂が手を上げる。

「わ、私! 山岸さんに、可愛いって言われました! 一緒にデート(牛丼食べ)にいきました!」
「――お、お兄ちゃんと!? ――ど、どういうことなの? お兄ちゃんに彼女が出来るはずがないのに……」
「鏡花さんって、山岸さんの事――、本当に好きなのですか?」

 江原も、参戦する。

「もしかしたら、山岸さんは鏡花さんのことを妹としか見ていないのではないのですか?」
「――っ!? そ、そんなことないから! お兄ちゃんとは血が繋がっていないし! それに将来は、お兄ちゃんと結婚することに決まってたし!」
「決まってた? それって……、山岸さんは知っていたんですか?」
「うっ!?――」
「知らないんですね。それなら、私達にも勝ちの可能性はありますね」
  
 江原は頷きながら呟く。
 話を聞いていた佐々木と藤堂も――「なるほど」と、頷く。

「――ところで……、山岸鏡花さん、少しいいですか?」

 女たちだけの話を聞いていた富田が口を開く。

「何でしょうか?」
「山岸直人様は、私達と出会った記憶が無いようでした。何かされたのですか?」
「…………別に何もしてません。――それと、今日は、この部屋で泊まっていけばいいです」

 鏡花は溜息交じりに4人が宿泊していいと伝える。

「そこの押し入れの中に来客用の布団があるから自由に使えばいいの」

 強い口調で、鏡花は呟くと立ち上がり部屋から出たあと居間の襖を閉じた。

「どんな事をしても、この世界の歯車は動くことはないの。これはお兄ちゃんの望んだ夢だから。だから私は――」



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