【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
幕間6 アメリカ海軍
――12月31日 午前3時。
太平洋沿岸部から、一隻の潜水艦が東京湾へと入り込もうとしていた。
「ローレン大佐」
「どうしたのかね? アリア君」
「ハッ! あと2時間ほどで目的地の東京湾アクアラインの直上に到着するとのことです」
「そうか……」
溜息交じりに190センチを超える長身の男――、ローレンが少尉であるアリアの報告に頷く。
その様子を見ていたアリアは、ローレンの顔色を伺いながら言葉を続ける。
「ローレン大佐、本当にいいのでしょうか?」
戸惑いの色を目に宿した、まだ年若いアリアは上司であるローレンに問いかける。
「何がだ?」
「日本は、我々祖国アメリカとの同盟国です。それが――、このような作戦を……」
アリアの言葉に、ローレンは肩を竦める。
「仕方あるまい。本国はそうしろと言うのだ」
「ですが!」
「くどい! 我々は、祖国の繁栄のために動いている。君も日本のダンジョンが攻略されたという事を知らないわけではないだろう?」
「知っていますが……」
「日本は、レベル8000を超える化け物が誕生したのだ。それは核兵器に等しい、そんな人物を野放しにしておけば世界の警察たるアメリカの正義の威信に傷がつきかねない! それに日本は夏目内閣になってからというもの、急速に自国の軍隊を強化し始めている。それが何を意味するのか分かるか?」
ローレンの言葉に、アリアは眉間に皺を寄せながら頷く。
まだ若いということもありアリアの――、その表情には、どうしても納得できないという思惑がありありと浮かんでいる。
「分かっています! それでも――!」
「日本は、わが祖国アメリカからの庇護の元から飛び立とうとしているのだよ。それが、どれだけ危険なことか君にも分からないわけがないだろう? そうなれば間違いなく日本は軍事産業に力を入れ始める、それに、日本はダンジョンを攻略した場合の無尽蔵な資源を手に入れることも出来るのだ! 世界の9割のダンジョンが日本に存在しているこの現状! これに危機感を抱かない国はない!」
「分かっていますが……、それでも――」
「仕方ないことなのだ」
ローレンは、椅子に座ると冷めたコーヒーに口をつける。
「これは祖国が決定したことなのだ。よいな? 本日22時00分より、東京湾アクアラインの海底部分――、道路の脇に出現し封印されたAランクのダンジョンのコンクリートの壁を破壊する。それにより長年せき止められていた魔物が出てくるはずだ。それを横浜のアメリカ海軍と陸軍が叩く。それにより日本に我々、アメリカ軍が居なくは国を守れないという事を教えてやるのだ。そうすればダンジョンの権利をいくつか奪うことも出来るだろう」
あまりの言葉に――、女性である少尉アリアは拳を握りしめる。
それでは、魔物がダンジョンから出てきた場合、被害が拡大するのでは? と――。
「……ローレン大佐、海ほたるには年末ということで牛丼フェアというのが22時からするようでして……、かなりの人が集まります。日にちを改める訳にはいかないのでしょうか?」
「年末だからこそだ。多少の犠牲が出た方が世論は日本国政府を叩く。そして、我々が魔物を倒せば――、日本のマスコミは我々を正義として扱う。日本のマスコミは、自国の政府を叩くのが好きだからな」
その言葉に、アリアが唇を噛みしめる。
その様子を見ていたローレンは立ち上がり彼女の肩に手を置く。
「これは祖国アメリカが決めたことだ。君が気にすることではない」
「…………牛丼フェアや花火が中止になってしまうかもしれませんね」
皮肉交じりにアリアが言葉を紡ぐと、ローレンは鼻で笑う。
「牛丼ごときで怒る人間なぞ居る訳がないだろう?」
「そうですね……」
「わかったなら、すぐに海兵隊の準備をさせろ。時間はないぞ? あくまでも、大朝鮮大帝国のスパイが東京湾アクアラインを破壊したということにしなければならないからな。わかったな? アリア君」
「…………わかりました」
コメント