【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

ダンジョン探索依頼(2) 第三者視点




 メゾン杵柄の前に山岸直人を下ろしたあと、車はモノレール沿いの大通りへと出る。
 そして車はまっすぐ都賀駅の方へと走り出す。

 それから1時間後、若葉区の陸上自衛隊駐屯地である下志津駐屯地へと竹杉が乗る車は到着しゲートを潜りぬける。
 車は、ゲートを抜けると停車した。
 そして、すぐに車から竹杉(たけすぎ) 俊作(しゅんさく)が出てくる。
 
 その姿を見た金村3佐がすぐに駆け寄る。

「幕僚長、お疲れ様です。その様子では――、話し合いは上手くいったようですね」
「うむ、山根君は?」
「はっ! すでに他の任務を実行しているところであります!」
「なるほど、すぐに会いたい」
「わかりました。すぐに呼んで参ります」

 竹杉の指示に、金村3佐は頷くとグラウンドの方の建物へと走っていく。
 その後ろ姿を見たあと、竹杉はコンクリート作りの3階建ての建物の中へと入る。

 そして――、作戦会議室のドアを開けると中へと入り近くのソファーに座ると目を閉じた。




 5分も経たず、部屋のドアがノックされる

「山根2等陸尉です! 失礼致します!」

 室内に、山根(やまね) 昇(のぼる)が、入ってくる。

「そこに座ってくれたまえ」
「ハッ!」

 山根は、向かい側の椅子に腰を下ろす。

「――さて、山根君。君が睨んでいた通り、山岸直人という男――、魔法を覚えているということが確認できた」
「やはり……」
「うむ。藤堂君が隠していた彼の独り言――、魔法を覚えるという独り言であったが、彼は少なくとも4つの魔法を保有していることが考えられる」
「やはり……、1つは習志野駐屯地のコンクリート製の壁を破壊した魔法ですか」
「そうだな。そして、1つは電子機器に干渉することが出来る魔法、あとは貝塚ダンジョンから放たれた緑色の極光だ」
「そうですか……、やはり……」
「あとはこれだ」

 竹杉幕僚長は、ポケットから山岸直人が藤堂と牛丼を食べに行ったときに使った株主優待券を取り出すと山根に向かって放り投げた。
 山根は、優待券を空中で受け取る。

「その株主優待券は、まだ発行されていない。藤堂や店員は気がつかなかったようだが……、本来は未来に発行されるものだ」
「それでは――」
「そうだ。あの男は未来の事象を書き換える魔法を有している」
「それは――!?」
「ああ、相当危険な魔法だが……、使いこなす事が出来るならば、これ以上強い魔法はない」
「たしかに……」

 竹杉の言葉に、山根は同意を示す。

「山根君。君は以前に、山岸直人のレベルを見たことがあるのだったな?」
「はい、レベルは1でした」
「ふむ……」
「それが何か?」



「つまり……だ――。山岸直人という男は、LV1のくせに警察官の放った銃弾を受けても無傷だったということになる。そして君が当てるつもりの無かった弾を見て躱したのだったな?」
「いえ――、最初から銃弾の軌跡が見えていたようでした。当てるつもりはなかったとは言え彼は異常です」
「つまり、銃弾の軌跡が見える魔法、さらには銃弾を受けてもダメージを受けない魔法。これらも持っているということか……、俄かには信じられんが……」
「幕僚長、ですが――、これは……」
「うむ、事実ということだろう? どちらにせよ、あの男は【未来の事象を書き換える魔法】【体を硬化する魔法】【視覚強化の魔法】【電子を操作する魔法】【破壊系の魔法】、この5つを持っていることになる。それが、どのような魔法かは知らぬが、野放しにするにはもったいない」
「はい、よい副産物です」
「うむ、杵柄老人が倒れた時には、我々が山岸直人を監視していることが明るみに出るかと肝を冷やしたものだが――、結果的にあの男――、山岸直人という男と繋がりが出来た。それは不幸中の幸いだろう。山根君、君には命令とは言え損な役回りをさせてしまったな」
「いえ! 自国のためです!」
「うむ――、昇進の件については私の方から取り成しておこう。それと藤堂君についてだが――」
「はい。山岸直人について、意図的に情報を知らせなかった罪もありますので、しばらくは営倉に入れています」
「そうか……、江原君については私の方から山岸君にアプローチをするように命令しておこう。佐々木君に関しては、どうしたものか……、この際、自衛隊に異動させるかな?」
「そうですね。佐々木君は、山岸にかなり執着しているようですからね。我々から見ても山岸直人という男はジョーカーみたいなものです。不確定要素がある人間の元に佐々木君のような人間を置いておくのはまずいでしょう」

 山根の言葉に、「そうだな」と、竹杉は頷く。

「――ですが、1つ問題があります」

 疑問点を挙げた山根に、竹杉が首を傾げる。

「問題点?」
「ハッ! 佐々木君自身が、自衛隊に入るのを良しとするかどうかです」

 その言葉に、竹杉の口元が笑みを浮かべる。

「問題ない。どうせ誰でも出来る仕事を佐々木君にさせているに過ぎない。それにレベルも100に達していないのだろう? ――なら、私の権限で日本ダンジョン探索者協会をクビにすると説明をするだけでいい。理由は、貝塚ダンジョンが封鎖中で仕事が無いとでも言えばいいだろう。どうせ、試用期間にすぎないからな」
「なるほど……、それで自衛隊に良い仕事があると移籍させると?」
「うむ、良い案だろう? あとは静岡か沖縄に転属させればいい。どうせ、佐々木君の実家は複雑な事情があるのだから、仕事を辞めるという選択肢は取れないはずだからな」
「なるほど……、それでは私はすぐに――」
「いや、待て!」
「何でしょうか?」
「良い事を思いついた。佐々木君に貝塚ダンジョンの探索をさせてみたらどうかね?」
「――ですが、彼女は……」
「分かっている、だが――、よくよく考えて見れば貝塚ダンジョンは一度攻略されたダンジョン。彼女も自分の職が無くなると思えば頑張って探索をすることだろう?」
「ですが、それは……、あまりにも……」
「気にすることは無い。ダンジョン内では、すべて自己責任だ。万が一、地方に飛ばした者が、山岸直人と会ったらどうなる? その方が問題だろう? なら! ――いまは、攻略前と同程度の数の魔物が沸いているダンジョンを利用しない手はない。そうだろう?」
「――っ!? そ、それは……」

 竹杉は立ち上がると、難色の色を示した山根の肩に手を置く。

「君も、もっと上の階級に行きたいのだろう? だったら! 分かるよな? 我々は効率よく物事を進めないといけないことを――」
「…………わ、わかりました」

 無意識だろう。
 山根の手は――、自身のズボンを強く握りしめていた。





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