【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

死闘




 銃弾を握り潰す音は極めて静かであった。
 だが、銃声が鳴り止んだあと――、静かになったホールには不思議なほど、金属が握りつぶされた音は響いた。

「――な……なんだと!? 対カーボンナノチューブの結合を破壊しアラミド繊維をも貫く銃弾を……。す、素手でだと!? ……き、貴様は、いったい……」

 俺は兵士の言葉に耳を傾けず、特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」の指示どおり動く。
 一足飛びに、驚愕の表情を見せていた兵士の懐に飛び込むと同時に、体を捻転させながら腰からの力を丹田を通し腕へと伝達させ兵士のボディアーマーに向けて掌底を繰り出す。
 とっさに兵士は、アサルトライフルを俺の掌底とボディアーマーの間に挟んできたが――、俺は構わず掌底を繰り出す。
 繰り出した掌底は、アサルトライフルを粉々に粉砕しボディアーマーも粉砕。
 さらに兵士の体はホールの天井まで吹き飛ぶ。

 天井に打ち付けられた兵士の体は、重力に従って落下し地面の上に落ちると何度か跳ねてから動かなくなる。
 
 そして――、最後に無数のボディアーマーやケプラー繊維の欠片が雪のように死体の上に降り注ぐ。
 俺は、それを冷静に見ながら。

「――なるほど、かなり手加減したつもりだったが……」

 ゆっくりと俺は、レムリア帝国の兵士達の方へと視線を向ける。
 兵士たちは呆けていたがすぐに俺へとアサルトライフルやショットガンの銃口を向けてくるとトリガーを引いた。
 それと同時に視界に半透明のプレートが拡大される。



 ――アサルトライフルの銃弾の種類は、7.62mmX51mm弾と確認。
 ――ショットガンの銃弾の種類は、9.14mmのバックショットと確認。
 ――避けた場合、後方の人間に当たる恐れがあり。



「防御を――」



 …………。
 ……。
 ――スキル「大賢者」は了承を致しました。
 ――主、山岸直人の感情を汲み取りスキルの解放を行います。
 ――スキル「#JWOR」の機能一部解放を行います。
 ――特殊防御スキル「大国主神(オオクニヌシノカミ)」を展開発動します。
 ――広域防御スキルが解放されます。
 ――対物防御技術が自動的に発動します。



 スキル「大賢者」のログが流れると同時に、ダンジョンツアー参加者と日本ダンジョン探索者協会の職員を全員囲うように土の壁が一瞬で形成される。

「さっさと撃て!」

 カクの命令と同時に、無数の銃弾が俺に向かってくる。
 俺は、それらを全て両手で弾く。

「馬鹿な……、こんな馬鹿なことが……」

 アサルトライフルをオートにして撃ってくる兵士が信じられないと表情を向けてきた。

 俺は、銃弾を弾いたまま近くに置かれているスコップを手に持つと兵士に向けて投擲する。
 衝撃波を伴い放たれたスコップは、兵士が着用していたボディスーツなど紙細工のように切り裂くと、体を貫通し数十メートル先の壁に柄までめり込む。

 ……そして、同時に事切れた兵士が地面の上に倒れこんだ。

 一連の様子を見ていた兵士たちは、顔色を変えトリガーから指を離し呆けていた。
 あまりのことに理解が追い付かないのだろう。
 
 ――いや、一人だけ俺を見据えている男がいる。

「コイツは、とんでもない化け物がいたもんだ」

 どうやら、カクが撃つのを止めたようだが……。
 男は俺に無造作に歩み寄ってくる。
 そして、腰から2本のナイフを取り出すと両手にそれぞれ1本ずつ掴む。

「――さて、楽しませてもらおうか!」

 男の体が視界から消える。
 それと同時に体が、特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」の指示どおり自動で動くと後ろから振り下ろされたナイフを受け止めていた。

「ヒュー、すげえな。俺の短距離転移の魔法に反応してくるなんて、どんな反射神経してやがるんだ」

 カクの姿が目の前から消えるが、スキル「大賢者」の予測から俺は視線を左へと向ける。
 すると丁度、左側の少し離れた位置にカクが姿を現した。

「俺の短距離転移の魔法を……、見えているのか? こいつは――、面白くなってきたな! やはり戦いはこうじゃないとな!」
「面白いだと?」

 コイツは俺の神経を逆撫でしてくる。
 
「ああ、そうさ! 俺は強くなり過ぎたんだよ! だから、好んでこんなところまで来ているってわけだ! 人が死ぬ直前に見せる表情を見て俺は生きているって実感できるんだよ! お前だってそうだろ! それだけの力を手に入れたってことは何かを犠牲にしているはずだ! 貴様の目を見れば分かる! 貴様は、人の命なんてどうでもいいと思っている目をしてやがる! そう! 自分の命さえ無価値だと! お前は思っているんだろ!」
「……人の命か」

 たしかに、男の指摘どおり俺は他人がどうなろうと知ったことじゃないし、誰が死のうが生きようが関係ないと思っているが……。

「そうだ! 貴様の瞳は雄弁と語っているぞ! 何より貴様が、それだけの力を持っていることこそ! その証だろうに!」
「……何が言いたい?」
「おいおい、俺に言わせたいのか? 俺の部下を、躊躇いもなく殺しておいて――、それでも尚、俺に言わせたいと? ククククッ――、ハーハハハハハッ。コイツは、筋金入りだな! オイ!」
「……」

 何がおかしいのかカクという男は、両腕を開きながら天井を見て狂気を含んだ笑いをあげると、唐突に奇異な笑みを浮かべ俺を見てくる。

「レベルを上げるためには3つ方法がある。一つはダンジョンで魔物を倒すこと。一つは、迷宮から手に入れた鉱石を使い製造した機械を体に埋め込み物理的に強くなる方法――、コイツはまだ実験段階だ。そして最後に――、ダンジョンに入ったあと、ステータス参照を試みたあとに同族を殺すことだ! 同じ人間を殺すことで大量の経験値を手に入れることができる。俺の場合は、何百・何千もの人間を殺した。俺のレベルは、それで飛躍的に上がった! ――ステータスオープン!」

 途端に男の頭上にレベルが表示される。
 その数値は、やはり俺が「解析LV10」で見た通り514の数値を示していた。

「見えただろ? 同族を殺せば効率よくレベルを上げることができる! だからレムリア帝国は紛争地帯に兵士を派遣しているんだよ! レベルを上げるためにな!」
「……自らが強くなるためだけに他者を犠牲にしているのか?」
「そうだ! 俺の力は他者を殺し、その殺される間際の表情で生きているってことが実感できるんだよ! お前だってそうだろ? さっきも言ったよな! 目を見ればわかるんだよ! てめーは、世界を! 人間を憎んでいる! 絶望している! だから、てめーは俺と同じ穴の貉なんだよ! それだけの力を手に入れたってことは、俺と同等、それ以上の人間を殺しているんだろ! レベルは1だが……、魔法の「隠蔽」でも使っているのか? ってことは、LV500超えってことか……」

 なるほど、LV500を超えれば魔法が手に入るのか……。
 それは良いことを聞いた。

「何も言えないってことは図星か!」
「俺はお前とは違う」
「ちっ、つまらねーな。せっかく俺と互角に戦える奴が居たから話を聞こうとしたのによ」

 カクが、首を鳴らしながら俺に向かって走ってくる。
 そして、縦横無尽に煌めく2本のナイフの刃を、俺の手刀が粉々に砕く。

「おいおい、マジかよ! お前すげーな! お前が砕いたナイフはモース硬度20を超えていたんだぜ! それを素手で破壊するかよ――」

 一々、癇に障る話し方をする奴だな。
 こっちは時間が無いと言うのに……。
 だが、相手の技量はすでに見て取れた。

 次に攻撃してきた時が――。

「――なっ!?」
「ぎゃあああああああ。……た、たいちょう……なぜ……」
「「「「ひいいいい」」」」

 男が短距離転送で向かった先は、俺ではなくレムリア帝国の兵士のもと。
 兵士の目の前に転移すると同時に兵士達の首を腰から抜いたナイフを扱い切り裂いていく。
 絶命していく兵士。
 さらに、逃げようとした自国の――、仲間の兵士もお構いもなく殺していく。
 笑いながら――。
 
 そして……、最後の一人を殺したところで、頭を横に倒しながら俺の方へと振り返ってくる。

「クククッ。レベルは600ってところか……。さすがに! LVが高い獲物を狩ると経験効率が違うなあああああ! 今度から、レベルを上げるときは探索者を殺すとするかあああああ!」

 男が叫ぶと同時に、何もない空間に向けてナイフを一閃してくる。
 距離は30メートルは離れていて、どう考えてもナイフの刃が届く距離ではない。

 だが――、すぐに半透明のレッドプレートが表示される。



 ――スキル「大賢者」が警告します。
 ――魔法「エアロブレイド」を確認しました。
 ――避けることを推奨します。



 俺は後ろに守る者の気配を感じながら「避けられるわけがないだろ!」と言葉を紡ぐ。
 大賢者が避けろと言っていることから危険な物だというのは察せられる。
 だが――、俺が避けたら……。

  

 ――特殊防御スキル「大国主神(オオクニヌシノカミ)」での防御では防ぎきれません。
 ――避けることを推奨します。



 俺の迷いを助長するかのようにスキル「大賢者」が回答してくる。

「それなら尚更、避けることはできない」

 俺の後ろには守るべき者がいる!
 
「大賢者! 特殊防御スキル「大国主神(オオクニヌシノカミ)」を前面に多重展開!」



 …………。
 ……。
 ――スキル「大賢者」は承諾しました。
 ――特殊防御スキル「大国主神(オオクニヌシノカミ)」を前面に多重展開します。



 スキル「大賢者」のログが流れると同時に無数の土壁がダンジョン内の地面からせり出してくる。
 それらが次々と重厚な壁を作り出す。
 そして――、カクが放った空間の断裂を受け止める。
 次々と錬成された壁が粉砕されていく。
 最後の土壁が破壊される直前で、俺は両腕を交差させる。
 
 全ての土壁を破壊したエアロブレイドは、俺の両腕と接触。
 周囲に血飛沫が舞い散る。
 脳髄に直接響く痛み。
 それは意識を狩り取るほどの激痛。
 俺は、歯を食いしばりながら痛みに耐え両足で地面を踏みしめる。
 
 ――だが、想像以上に威力があり俺の体は後方へと押されていく。
 それと同時にHPが凄まじい速さで減少していき――、ダンジョンツアー参加者を守っていた土壁近くまで押し込まれたところでようやく防ぐことができた。



 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 71キログラム

 レベル1(レベル449)
 HP 10/10(726/4490)
 MP 10/10(4490/4490)

 体力17+〔152〕(+) 体力120+〔1077〕
 敏捷15+〔134〕(+) 敏捷120+〔1077〕
 腕力16+〔143〕(+) 腕力141+〔1266〕
 魔力 0+〔+0〕(+) 
 幸運 0(+)
 魅力 2(+)

 ▽所有ポイント 0 



 たった一発の攻撃でHPを8割近く削られた。

「はぁはぁはぁ……」
「おいおい、マジかよ……。お前、「隠蔽」の魔法以外にも「アースウォール」の魔法が使えるかよ? ってことはレベル600超えか? イイネ! 戦いはこうじゃないとな!」

 俺は肩で息をしながら男を睨む。

「イイネ! その瞳イイネ! お前を殺して、俺はさらなる高みへと! 人のあるべき進化の果てへと足を踏み入れる!」
「何が進化の果てだ……、巫山戯るのも大概にしやがれー―」
「なら、お前は何のために戦う? その得た力を何のために使う? 答えてみせろ!」
 
 大賢者、奴を倒すための力を俺に――。



 ――スキル「大賢者」は了承しました。
 ――主、山岸直人の感情を汲み取りスキルの解放を行います。
 ――展開発動中の特殊戦闘スキル「須佐之男命(スサノオ)」の派生スキルが、魔法として魔法欄に追加されます。



  大賢者のログと同時に視界内の魔法欄が開く。

 

 魔法 

 ▼草薙剣(くさなぎのつるぎ) 

  消費MP 
  接続中、常時MP消費
  
  効果
  消費MPに応じて威力が跳ね上がる。





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