地の底から這い上がる

海月結城

死神

「お頭!」
「ん? どうした?」
「斥候のワンから連絡がありました。いい馬車が通ったと」
「そうか。お前ら行くぞ。俺たちの餌が来たようだ」
「「「はい!!」」」

 そして、盗賊たちは馬車を襲撃する場所と時間を決めて、アジトを出た。一方馬車の中では、

「お嬢様、窓から顔を出してはいけませんよ」
「えぇー、風が気持ちいいのです。少しぐらいいいじゃないですか」
「ダメです。お嬢様のような方がそんなことをしてはなりません」
「もー、私のメイドはケチな」
「ケチでいいですよ。ほら、きちんと座ってください」
「嫌よ、馬車の中ぐらいはしゃいでもいいじゃない」
「はぁ、しょうがないですね」

 その馬車は、二頭の馬が引き、装飾はあまり多くはない豪華な馬車だ。それの周りには馬に乗った騎士たちが前と後ろに一人ずつ、左右には三人ずつの計八人がその馬車を守っている。

「騎士団長」
「何でしょうか?」

 メイドが、外にいる騎士団長に話しかけた。

「あとどのくらいで着きますか?」
「そうですね。日が傾く前には着くと思いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」

 事務的な会話を終わらした二人は、それぞれ仕事に戻った。メイドは、お嬢様との遊び相手に、騎士団長は護衛に。それから、数時間後シャルル共和国の壁が見えた。

「お嬢様。門が見えたようです」
「ほんと!? シャルル共和国は初めてなので、とても楽しみです!」
「子供みたいにはしゃいじゃって」
「何を言うんですか、私はまだ十四歳の子供です!」
「そうでしたね」

 門が見えて騎士たちも談笑を始めた。

「今回は特に何も起きなくてよかったな」
「そうだな。早く宿に行って寝たいぜ」
「俺は、風呂に入りてぇな」

 騎士たちの気が緩んだ時だった。馬車の馬の足に矢が突き刺さった。馬は足に力が入らずそのまま倒れてしまった。それと同時に馬車も大きな音を立てて横に倒れてしまった。

「っ!? 敵襲! 構えよ!!」

 騎士団長が部下たちに叫んだ。その言葉に七人の騎士たちも腰の剣を抜いた。

「姿が見えないか。集合陣形!」

 騎士団長がすぐさまお嬢様たちを守るために陣形を組んだ。

「お嬢様! 大丈夫ですか!?」

 騎士団長は横に倒されている馬車に向かって叫んだ。

「え、えぇ。大丈夫です。で、でも、キレアが私をかばって……」
「……わ……私は……お嬢様の……メイド……です。お……嬢様を……守る……のが……私の役目……泣かないで……下さい……可愛い顔……が……台無し……ですよ……お嬢様の……メイドに……なれて……私は……幸せでし……た……」
「キ、レ、ア? ねぇ、返事を、して。起きてよ。いつもみたいに、私を笑顔をしてよ。お願い、キレアの言うこと聞くから、いい子になるから、お願い、起きてよ、返事をして……」

 お嬢様の語りかけにキレアは笑顔のまま返事を返さなかった。

「団長」
「出てきたか」

 騎士団長が目を向けた先にはぞろぞろと木の陰から出てくる盗賊だった。

「お、いい感じに倒れてるじゃないか」
「貴様ら! 我々が誰だか知っていて、手を出したのか!?」
「当たり前だろ。キャメル王国の王女様」
「世界の異常事態に人間が人間を襲ってどうする!?」
「俺には知ったこっちゃねぇ。俺らは、今を生きるのに必死なんでね。王国から放り出された俺らはな。って事で、金目の物と王女様をこちらに渡して貰おうか」
「そんな真似が出来るわけないだろう!!!」
「そうだろうな。なら、力ずくで奪うだけだ。やれ」

 盗賊のお頭が周りにいる部下たちに号令を出した。すると、騎士たちに向かって四方八方から炎を纏った矢が飛んできた。

「シールド!」
「ウィンドシールド!」
「ウォーターシールド!」

 三人の騎士がシールドの魔法を使った。三分の一の範囲を三人で守った。

「ほぉ、今のを防ぐか」
「ふっ、王国の騎士を舐めるんじゃない」
「シールドの魔法は鉄壁故に魔力を多く使う」
「それがどうした」
「俺たちはな、馬車を襲撃するときにちゃんと作戦を立てるんだよ。お前たちみたいに、その場の判断で作戦を立てるんじゃなくてな」
「何が言いたい?」
「まだわからないか? 俺たちはまだ矢を一本ずつしか使ってないんだよ。やれ」

 再び矢が騎士たちに向かって行った。それをシールドで防ぐ。だが、シールドは持続時間がそこまで長くない。矢が放たれてシールドに防がれる、シールドが消えた瞬間にまた、矢を放つ。それを三度繰り返すと騎士たちの魔力が尽きた。

「次のはどうやって防ぐ?」
「「「俺たちが塞いでやる!」」」

 待機していた三人の騎士たちが守りや体制に入った。しかし、魔力が尽きるまで再び矢を放たれ続けた。

「騎士ってのはこんな簡単に攻略出来るとは思ってなかったぜ。一番最初に考えたお粗末な作戦に撃沈されるなんてな」

 そう言って、盗賊のお頭はゲラゲラと笑った。それにつられ、部下たちもゲラゲラと笑っていた。

「すみません、お嬢様。あなたをお守りできませんでした」

 騎士たちがキレアに抱きついて泣いているお嬢様に向かってそう言った。だが、お嬢様はそんな言葉も聞くことはなく、悲しみに暮れていた。

「さて、お前たち騎士は邪魔だな。死ね」

 再び矢の雨が騎士たちに降り注いだ。だが、それで死んだものはいなかった。ブウォン!
 騎士たちを中心にいきなり強い風が吹いた。

「おいおい、騎士団長がいることを忘れてないだろうな?」
「チッ。こいつは俺が引き受ける、お前たちはこの弱っちい奴らを殺せ」
「ちょいちょい、副長がいることも忘れてはなりませんよ」
「二対一でいいぜ。こいよ」

 なんと、盗賊のお頭は騎士団長と副長の二人を相手に取った。

「お頭は大丈夫なんですか?」
「あぁ、お前は新人だから知らないだろうが、お頭はあんなへぼい奴らに負けねぇよ。俺たちは、あの騎士たちを殺すのが先だ」
「わ、分かりました」

 そして、盗賊のお頭と騎士団長と副長の戦いはあっさりと決着がついた。

「う、そだ。私が、負けるだと?」
「今の騎士団長はこんなに弱いのか。王国はそろそろ滅ぶんじゃないか?」

 勝ったのは盗賊のお頭だった。

「す、すげぇ。お頭ってあんなに強いんですね」
「だろ。なんたってお頭は元王国の騎士団長だからな」
「へ? 元騎士団長が盗賊になるって、何があったんですか?」
「さぁな、それは誰も知らないみたいだな。さて、こいつらを殺して今回の任務は終わりだ」

 盗賊たちは騎士たちを殺して、お嬢様と金目の物を奪った。

「お前……ら。このまま逃がすとでも思ったか?」

 騎士団長は最後の力を振り絞って胸元から禍々しい石を取り出した。

「それは、まさか!?」
「あぁ、そのまさかだ。お前ら盗賊は死ね!!」

 騎士団長は、その石にありったけの魔力を注ぎ込んだ。すると、石の中に煙のやうなものがうねうねと回転し始めた。すると、スバッ! っと、盗賊たちの命が一瞬で刈り取られた。

「ど……うだ。一矢報いて……やったぜ」

 その石には、あるスキルが封印されていた。昔死神と呼ばれた暗殺者が持っていた、『死神の鎌』と言うスキルだ。自分が目視できる範囲にいる、自分が決めた生物の命を刈り取ると言うスキルだ。それを騎士団長は盗賊たちに使ったのだ。
 そして、その場所には女の人に抱きついている女の子一人が残されたのだった。


主人公が助けに入ると思った人は少なからずいるだろうな。

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